「更衣様、この蜥蜴は物置小屋にでも閉じ込めておきましょう。しばらく経てば死んでいるでしょうから」

 女房達からの提案に、未だ息を荒らげている環子はそうね……と短く答える。

「早く」

 女房達も魚子には触れたくないらしい。しばらくすると七殿五舎中の警備に当たっている男性3名ほどがやってきて、魚子を後ろからとらえる。
 これ以上抵抗すればまた砂塵のつむじ風が襲い掛かる。そう察していた魚子はおとなしく物置小屋へと連れていかれるとそのまま放り投げ出され、中へと閉じ込められた。
 物置小屋の中は箒など掃除道具がいくつか立てかけられているだけで、簡素な状態。小さな格子状の窓が1つあるだけで薄暗く、じめじめとしている。

「……座敷牢と変わらないじゃない」

 あれだけ期待は抱かないと決めていたのに、魚子の目からは何故だか涙があふれ出してくる。

「御上」

 ぽつりと零れ落ちた名前は、昨夜魚子の元へ訪れた男。それと同時に彼との逢瀬を全て思い出した。

――そうだ。それは決してただの呪いなどではない。我々を救えるのはそなたしかいないのだ。頼む、我が妻となってくれないか?
――そういう所が可愛いのよ。よし、決めた。そなたが妻になると言いだすまで毎晩ここに来よう。

 ころころと表情が移り行く鯉白が投げかけた言葉を思い出した時、懐中に彼が残した白い布を収納していたのを思い出した。全部自分の勘違いだろうし忘れようとしていた時に。と心の中でつぶやきながら、白い布を取り出す。

「……やっぱり、夢じゃなかった」

 白い布にはまだ仄かな光が残っている。