「もし私の元に御上がお渡りにならなかったら、どうしてくれるのかしら? 責任取ってくれるわよねぇ?」

 環子の怒りは収まる気配を見せない。女房達は魚子へ怒りの目線を投げかけてはいるが、同時に環子の怒りにおびえているようにも見えた。

「私、ただでさえ更衣なのよ?! 更衣って女御よりも下なのわかる? この美しい私が更衣なんてありえない……!」
「……それくらいは理解できます」
「それくらいって! あなた、私をバカにしているの?! 蜥蜴のくせにぃっ‼」
(まずい……!)

 檜扇を何度も振り回され、先ほど以上に強力な砂塵のつむじ風が建物内すべてを吹き荒らした。女房達からは大きな悲鳴が上がり、すっかり狂乱の空気に染まる。

「許さない許さない許さない!」
「っ更衣様、お気持ちはわかりますが、おやめください……! 梅壺内が倒壊してしまいます……!」

 これ以上はまずいと女房数人が環子を後ろから羽交い絞めにして、異能を使うのをやめさせようとしているが、彼女はより怒りをたぎらせていくだけ。
 女房達の中には顔や手などに細かい切り傷を負って出血している者も複数いる。反対に魚子は蜥蜴の鱗で覆われている部分が多いゆえにほぼ無傷だ。

「はあ……はあ……」

 しばらく経過して息が切れた環子は肩を上下に動かしていた。その様子を魚子はやっと落ち着いた……と心の中でつぶやきながら、ちらちらと覗いていた。