目を細めて微笑みながらそう語る鯉白に、魚子はえ?! と驚くより他ない。

「くっくっく……そなた、中々に面白いおなごだな」
「バカにしているおつもりですか」

 これまで環子などからバカにされてきたのは数えきれないくらいあるが、鯉白から笑われるのはまだ免疫がない。そのせいで魚子はむすぅっ……と小さなふくれっ面を見せてしまった。

「そういう所が可愛いのよ。よし、決めた。そなたが妻になると言いだすまで毎晩ここに来よう」
「は、はぁ?!」
「いずれ、そなたは余の妻となってもらわねば困るのだ。先ほどの話、覚えているよな?」

 にやっと笑う鯉白の目は一瞬で鋭さを孕んだ。その目を見た魚子の胸の奥はぎゅっと締め付けられるような、怖さにも似た痛みを覚える。
 皇龍一族は魚子にかかっている――信じられない話だが、事実なら自分の選択が妖華国の行く末を担っている事になる。理解した瞬間、華奢な背中がずしんと重くなった。

「だが余は寛容だ。そなたの意志を尊重したい」
「……本当に、明日もいらっしゃるのですね」
「勿論。ではこの辺で。必ずやまた来る」

 鯉白の姿はそよ風となり、一瞬で消えていた。

「……幻なんかじゃ、ないよね……?」

 すると右足付近に、白い布が落ちていた。布には鯉白の異能の残滓がわずかばかり残っているせいか、黄色く淡い光を放っている。

「……夢じゃない」

 魚子は白い布を大事に胸元へしまうと、床の上に寝転がった。