「え……? 私?」
「そうだ。それは決してただの呪いなどではない。我々を救えるのはそなたしかいないのだ。頼む、我が妻となってくれないか?」

 真っすぐに頼み込む彼の瞳の奥には、鋭い眼光が宿っていた。
 
(え……)

 魚子が誰かから頼りにされるのは初めてだ。
 なんだかよくわからないが、胸の奥では嬉しい気持ちがこぼれては来るものの、やはり疑いの気持ちは晴れない。いきなりそれは黄龍の加護を受ける者の候補の印と言われても、魚子にはいまひとつピンと来ていなかったからだ。
 それに自分は異能を持たない。黄龍の加護があるなら異能のひとつやふたつ、あってもおかしくはないだろうと偏見も姿を見せる。

「私にはそのような大役無理です。それに……私を騙そうとしているのではないでしょうか?」

 ぎ……と細目で鯉白を見つめる魚子。本来御上である彼にそのような態度は不敬であるのは理解しているが、信用できないのに変わりはない。

「ふむ……そなた、御上にたてつく気か?」

 真剣そのものな表情が崩れ、にやりと笑う鯉白。彼の背中からは圧倒的な異能の気が勢いよく放たれる。その気に魚子は恐怖を覚えるが、目を逸らせなかった。

「……っ」
「……どれ」

 鯉白は魚子の右ほおに手を触れると、じっと瞳の奥を捉えるように見つめる。あまりにも力強い凝視に魚子は反射的に唾を飲み込んだが、視線はそのまま動かさない。
 動かしたらダメな気がする。と、なぜだか直感していたからだ。

「強い瞳だな。やはりそなたはただの地を這う蜥蜴ではない。龍を感じる」
「な、なにを……仰っているのですか」
「どうやら余はそなたの事しか考えられぬ呪いにかかってしまったようだ」