「ひっ……近寄らないで! この醜女! 蜥蜴は怖いのよぅ!」
十二単を身にまとった女房達が御簾越しに「彼女」を目にした刹那、まるで絹を裂いたような悲鳴がとどろく。
「いや――っ! 誰か、お清めを! アレに!」
「私はいやよ! 近づきたくないもの!」
「私も無理……! だって噂の蜥蜴姫でしょ?! 近づいたら呪われて死ぬって聞いたわよ!」
すっかり夜の帳が落ち、涼やかな空気と松明の炎に包まれた後宮・七殿五舎。その一角、梅壺に大納言佑光正の中の君・環子一行が足を踏み入れた。だが、右列後方に、人々は否応なしに注目せざるを得ない状況である。
そこにいたのは佑魚子。佑家の大君で環子の姉に当たる人物だ。暖色系と緑色からなる十二単を着てもわかるくらい頬など全身のほとんどが黒い鱗に覆われている。
それゆえに蜥蜴姫と呼ばれ忌み嫌われている。たれ目よりな黒い瞳は大きくぼんやりと見開かれ、黒い髪は手入れがほぼなされていない。
だが、こうなる事は知っていたと言わんばかりに、彼女は口を閉ざして歩くだけだ。
「ああ、環子様のお美しいお顔だけが救いだわ……」
宮中の女房達は先導を歩く環子へ逃げるように視線を移した。寒色系の十二単を身にまとう彼女は、髪と目の色が魚子と同じであるにもかかわらず、どれもこれも美しさを誇る。
国一番の美女と言われている存在である彼女は、大きな檜扇で隠した唇を苦々しく噛み締めていたが、女房達にはわからないようだ。
十二単を身にまとった女房達が御簾越しに「彼女」を目にした刹那、まるで絹を裂いたような悲鳴がとどろく。
「いや――っ! 誰か、お清めを! アレに!」
「私はいやよ! 近づきたくないもの!」
「私も無理……! だって噂の蜥蜴姫でしょ?! 近づいたら呪われて死ぬって聞いたわよ!」
すっかり夜の帳が落ち、涼やかな空気と松明の炎に包まれた後宮・七殿五舎。その一角、梅壺に大納言佑光正の中の君・環子一行が足を踏み入れた。だが、右列後方に、人々は否応なしに注目せざるを得ない状況である。
そこにいたのは佑魚子。佑家の大君で環子の姉に当たる人物だ。暖色系と緑色からなる十二単を着てもわかるくらい頬など全身のほとんどが黒い鱗に覆われている。
それゆえに蜥蜴姫と呼ばれ忌み嫌われている。たれ目よりな黒い瞳は大きくぼんやりと見開かれ、黒い髪は手入れがほぼなされていない。
だが、こうなる事は知っていたと言わんばかりに、彼女は口を閉ざして歩くだけだ。
「ああ、環子様のお美しいお顔だけが救いだわ……」
宮中の女房達は先導を歩く環子へ逃げるように視線を移した。寒色系の十二単を身にまとう彼女は、髪と目の色が魚子と同じであるにもかかわらず、どれもこれも美しさを誇る。
国一番の美女と言われている存在である彼女は、大きな檜扇で隠した唇を苦々しく噛み締めていたが、女房達にはわからないようだ。



