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薄い暗がりの中、ベッドに横たわる。
自室の電気を滅多につけなくなったのは、波琉くんが亡くなってからだと思う。
お母さんに元気がないのを悟られまいと夕食の唐揚げを大量に食べたから、胃がぱんぱんに膨れているし油のせいで気持ち悪い。
お母さんは極度の心配性だ。昔から私が小さな怪我をしたり体調を崩したりすると、取り乱すように過度に心配した。
それはお母さんの元々の性格もあるし、高齢出産でようやく生んだ一人っ子だからというのもあるかもしれない。
そんなお母さんを見て育ったからか、私はまわりに心配をかけないようにと生きてきた。弱音を吐いたり暗い顔をしていたら、まわりの人を心配させてしまう。それは傍からしたら迷惑でしかなくて、他人を傷つけることにさえなり得る。だからいつだって笑顔で、哀しみや苦しみとは無関係のように振る舞うのだと。
そうするうちに笑顔は当たり前の装備になっていた。それはまるで洋服を纏うことと同じように、当たり前のことだった。
そんな私は、波琉くんの前でだけはありのままの自分で、泣いてばかりいた気がする。波琉くんは私が泣いたりしたところで傷ついたり揺らいだりしないから。
そして波琉くんがいなくなった今、6畳のこの自室にいるときだけ、装備が外れて本当の自分でいられた。この狭く閉鎖的な空間でようやく悲しみが詰まった息を吐き出せるのだ。
「はあ……」
額に手を当て、ため息を吐き出す。今ため息の質量を計ったら、いくらかは重さを持っている気さえする。
『来月の月命日は海に行かないか?』
先ほど朔良先輩にぶつけられた誘いが、胸の中で燻った手榴弾のように靄を広げる。
波琉くんのお墓はまだ建てられておらず、波琉くんの遺骨はいまだ家にある。このままお墓が建てられるかさえも危うい。
だから波琉くんの家に手を合わせに行くかと言えば、それは難しい話だろう。おばさんは私のことを快く思っていない。波琉くんを誑かしていると、そんなありもしない見方をされているのを知っている。
そういう経緯があって朔良先輩は波琉くんを供養するため海に行こうと持ち掛けたのだろうが、私はまだ海が怖い。
そのとき、視界がぱっと明るくなり、頭上でスマホが振動した。シーツの上で手繰り寄せ、緩慢とした動きでスマホを頭上に持ち上げれば、そこにはメッセージが表示されていた。朔良先輩からだ。
【話があるから、明日また今日の時間に公園に来てくれないか】
「話……?」
ひとりごちた声がしんと静まり返った部屋の中に吸い込まれていく。
気が重かった。きっと今日のやりとりを受けての話だろうけれど、もうあの話題には触れたくないのに。
けれどさっきは少し自分らしくない振る舞いをしてしまったから、それを取り戻すためにも断るわけにはいかない。
【わかった】
それだけ打つと、送ったあとでなんだか質素で冷たい感じがすることが気になりだす。
私は少しの思案ののち、わくわく!とうさぎがはしゃいでいるスタンプを押した。

