目も眩むような光の柱の中。
花緒は、神楽鈴が必死に花緒を助けようとしていることを感じ取った。場に溢れてしまった毒気。それを鈴が何とか抑え込もうとしている。
贄姫として未熟な自分。贄姫として失格である自分。こんな自分でも、鈴は救おうとしてくれているのだ。守ろうとしてくれているのだ。
(――……ありがとう。未熟でごめんなさい。あなたを持つにはふさわしくないかもしれないけれど、こんなところで負けない。だからどうか力を貸して)
花緒は奮い立つ。贄として桜河と共に黒姫国を守る。そう一度は決意したのだ。こんなところで約束を反故にするわけにはいかない。負けるわけには、いかない!
花緒は神楽鈴をぐっと握りしめる。花緒の気持ちに応えるように、鈴がシャランと鳴る。花緒が気持ちを立て直したことを感じ取ったのか、楽人たちが再度楽器を構える。
笛の高らかな音を筝が彩り、太鼓が規則正しい拍を刻む。花緒は静かに舞い始める。
――シャラン、シャラシャラ。
神楽鈴が涼やかに音を天に奏でる。場の毒気を浄化するため、鈴から妖力が広がっていく。そのたびに、花緒は自分の体力が根こそぎ持って行かれる感覚がしていた。まるで自分の生命力が鈴に流れ込み、鈴が浄化の妖力に変えているかのように。
花緒は歯を食いしばる。自分はどうなっても構わない。けれどもこの場だけは収めたかった。何としても自分の役目を果たしたかった。桜河、梵天丸、蘭之介、山吹、梅、瓢坊、お蓮――自分を受け入れてくれた彼らの恩義に報いるためにも。彼らの生きる黒姫国を守るためにも。
神楽鈴に体力を渡し、花緒は舞い続ける。花緒の鈴の音と、楽人たちの楽器の音が調和する。周囲の花々に青白い光が戻った。光の立ち昇る中、花緒は一心不乱に祈った。これ以上、心を乱されないよう。今の自分の力を信じられるよう。
自分は成長しているのだ。一歩ずつ、一歩ずつ。過去の自分に捉われる必要はない。
周囲に充満していた毒気が、空へと洗われていく。大池の縁に蹲っていた少女もまた、立ち上がって昇ってゆく光を見つめていた。少女の瞳には輝きが映り込んでいる。現世での辛い記憶を、光と共に昇華していく。毒気が抜け去った少女は穏やかな表情をしていた。花緒はその姿を横目に捉え、自分もまた救われた気持ちになっていた。
(……――よかった。なんとか、上手くいったのかもしれない)
ほっとしたからだろうか。だんだんと体から力が抜けていく。空へと昇っていく青白い光がぼんやりと滲んだ。視界がしっかりと捉えられない。神楽鈴に込めた体力が限界に近づいているのかもしれない。
(あと少し。あと少しだけ持って、私の体……!)
神楽鈴を鳴らし、花緒は舞の最後の一歩を踏みしめた。楽人の音色も同時に止む。訪れる静寂。青白く光り輝いていた花々の光も収まる。大池の縁に集まっていた霊魂たちから毒気は消え失せていた。花緒は胸の前で神楽鈴を持つ手を合わせ、深く一礼をした。
その途端だった。ぷつん、と糸が切れたように花緒の意識が失われていく。その場に崩れ落ちる花緒に、足がもつれんばかりの勢いで桜河が駆け寄る。腕を差し入れて花緒の華奢な身体を支えた。
桜河の今までみたこともない切羽詰まった表情。こちらの身を案じる必死な形相が、間近で自分のことを見下ろしている。
「花緒! ――」
――ああ、桜河様に心配をかけてしまっている……。
彼が自分の名前を懸命に叫んでくれている。けれども意識が遠のき、応えることができない。代わりに彼を安心させようと、花緒は手を伸ばして彼の頬に添えようと試みてみるけれど――それが叶う前に、花緒は意識を手放してしまった。
花緒は、神楽鈴が必死に花緒を助けようとしていることを感じ取った。場に溢れてしまった毒気。それを鈴が何とか抑え込もうとしている。
贄姫として未熟な自分。贄姫として失格である自分。こんな自分でも、鈴は救おうとしてくれているのだ。守ろうとしてくれているのだ。
(――……ありがとう。未熟でごめんなさい。あなたを持つにはふさわしくないかもしれないけれど、こんなところで負けない。だからどうか力を貸して)
花緒は奮い立つ。贄として桜河と共に黒姫国を守る。そう一度は決意したのだ。こんなところで約束を反故にするわけにはいかない。負けるわけには、いかない!
花緒は神楽鈴をぐっと握りしめる。花緒の気持ちに応えるように、鈴がシャランと鳴る。花緒が気持ちを立て直したことを感じ取ったのか、楽人たちが再度楽器を構える。
笛の高らかな音を筝が彩り、太鼓が規則正しい拍を刻む。花緒は静かに舞い始める。
――シャラン、シャラシャラ。
神楽鈴が涼やかに音を天に奏でる。場の毒気を浄化するため、鈴から妖力が広がっていく。そのたびに、花緒は自分の体力が根こそぎ持って行かれる感覚がしていた。まるで自分の生命力が鈴に流れ込み、鈴が浄化の妖力に変えているかのように。
花緒は歯を食いしばる。自分はどうなっても構わない。けれどもこの場だけは収めたかった。何としても自分の役目を果たしたかった。桜河、梵天丸、蘭之介、山吹、梅、瓢坊、お蓮――自分を受け入れてくれた彼らの恩義に報いるためにも。彼らの生きる黒姫国を守るためにも。
神楽鈴に体力を渡し、花緒は舞い続ける。花緒の鈴の音と、楽人たちの楽器の音が調和する。周囲の花々に青白い光が戻った。光の立ち昇る中、花緒は一心不乱に祈った。これ以上、心を乱されないよう。今の自分の力を信じられるよう。
自分は成長しているのだ。一歩ずつ、一歩ずつ。過去の自分に捉われる必要はない。
周囲に充満していた毒気が、空へと洗われていく。大池の縁に蹲っていた少女もまた、立ち上がって昇ってゆく光を見つめていた。少女の瞳には輝きが映り込んでいる。現世での辛い記憶を、光と共に昇華していく。毒気が抜け去った少女は穏やかな表情をしていた。花緒はその姿を横目に捉え、自分もまた救われた気持ちになっていた。
(……――よかった。なんとか、上手くいったのかもしれない)
ほっとしたからだろうか。だんだんと体から力が抜けていく。空へと昇っていく青白い光がぼんやりと滲んだ。視界がしっかりと捉えられない。神楽鈴に込めた体力が限界に近づいているのかもしれない。
(あと少し。あと少しだけ持って、私の体……!)
神楽鈴を鳴らし、花緒は舞の最後の一歩を踏みしめた。楽人の音色も同時に止む。訪れる静寂。青白く光り輝いていた花々の光も収まる。大池の縁に集まっていた霊魂たちから毒気は消え失せていた。花緒は胸の前で神楽鈴を持つ手を合わせ、深く一礼をした。
その途端だった。ぷつん、と糸が切れたように花緒の意識が失われていく。その場に崩れ落ちる花緒に、足がもつれんばかりの勢いで桜河が駆け寄る。腕を差し入れて花緒の華奢な身体を支えた。
桜河の今までみたこともない切羽詰まった表情。こちらの身を案じる必死な形相が、間近で自分のことを見下ろしている。
「花緒! ――」
――ああ、桜河様に心配をかけてしまっている……。
彼が自分の名前を懸命に叫んでくれている。けれども意識が遠のき、応えることができない。代わりに彼を安心させようと、花緒は手を伸ばして彼の頬に添えようと試みてみるけれど――それが叶う前に、花緒は意識を手放してしまった。

