家出JK『お嬢様』を助けてお菓子をあげたら懐かれた

 再び思い出話は一旦止まり、刀真の意識は今の鏡花と茜との時へと戻った。過去を鮮明に見れるくらいかなり話し込んでいたため、コップのお茶を飲み干しさらに注いでそれも空に。

「そういえばお嬢様、具体的にお父さんとどんな話したの? 大まかにしか聞いてなかったからさ」
「とうくん、聞いてなかったんだー。ちなみにあたしには聞いてるよー」

 茜はかなり自慢げにドヤ顔を披露する。刀真は若干イラッとしつつも、感情を抑えた。

「俺には聞かせてくれないの?」
「何かお兄さんには言いづらくて」
「……やっぱり俺って信用されてない?」
「ち、違うの! その、照れくさいというか、恥ずかしかったというか」

 鏡花は首を横に振り顔を少し赤らめる。

「わかった……もう結構時間経ったし、お兄さんにも詳しく話すわ」
「ありがとう」
「代わりにお兄さんの話も細部まで聞かせてもらうからね」
「了解……だけど。やっぱり改めて自分の話をするの恥ずかしいね」

 自分のターンが回ってくると思うと途端に羞恥の感情が起き上がってしまう。

「ほらねお兄さんにも同じ目に遭ってもらうから」
「……はい」
「ふふっ、恥ずかしそうにしてる二人良いなぁ」

 一方の姉は完全に傍観者となって楽しんでいた。不満ではあるが、とにかくまずは鏡花の話に耳を傾ける。

「あれはね……」

 それを皮切りにそして鏡花と父親との話が始まった。

 ◇◇◇◇◇

 土曜の朝、鏡花はしっかりと眠ることができており、スッキリとした目覚めだった。窓からは柔らかな日差しが差し込み、その二つで上手くいくような気がして、不安の心が少し緩んだ。

「って、お兄さんもう起きてたんだ」

 キッチンの方から音がしていて、茜がいるのかと思えばそこには刀真がいて、朝ご飯を作っているようだった。

「何か目が覚めちゃって、緊張しちゃって二度寝も出来なくてさ」
「お兄さん、まだ緊張してるの? 全くしょうがないね」

 相変わらずでため息が出そうになるが、自分よりも緊張している人がいると不思議と落ち着けて、自分事のように考えてくれるのは嬉しかった。

「それで、朝ご飯作り?」
「暇だったし、まぁ応援のつもりでね」
「……」

 鏡花は改めて刀真が茜の弟なのだなと感じて、ふと最初に出会った時の事を思い出す。あの日刀真と出会って、見知らぬ年上の男にも関わらず大丈夫そうだと思えたのは、無意識的に似たものを見ていたからなんだろうと振り返った。

「ちなみにお菓子も買ってきたからあるよ」
「本当っ! ありがとうお兄さん!」

 刀真の声からお菓子という単語が聞こえると胸がとても弾む。そしてそのラインナップを見せてもらうと今すぐに手にしたくなる。同じものでもこの家で見るのと店などの場所で見るのとでは数倍魅力的だった。

「さぁ、どうぞ」
「いただきます」

 ごはんにたまご焼きやサラダ、ベーコンに味噌汁というまさに朝ご飯というメニューだ。オーソドックスだが、そこにデザートとしてうす塩味のポテチが置かれており、それ一つで鏡花のためのものだと印象な変わる。

「……美味しいわ」

 ほとんど茜の作ったものばかり食べていたので、刀真の作る料理は少し新鮮に感じつつも、姉弟だからか似たような味でもあって、安心感もあった。

「良かったよ、姉ちゃんのよりはあれだろうけど」
「そうでもないわ。遜色ないくらいの味だし……今はお兄さんのだから勇気もらえてる……的な」
「そう言ってもらえて嬉しいな」

 言ってて段々と恥ずかしくなってきて、鏡花は誤魔化すように少し早めに箸を進める。

「ごちそうさま。まぁ、私にとってのメインディッシュはこれだけどね」
「ですよね」

 苦笑する刀真を見て、お兄さんだからこそ美味しく感じる、その言葉が出そうになったが、ポテチと共に飲み込んだ。

「はぁ〜美味しすぎる」

 口内を広がるジャンクな味を味わう度にドーパミンが溢れ出し、次から次へと手が止まらなくなる。そうして気づけば空っぽになってしまう。代わりに満足感が残った。

「ありがとうお兄さん、これで頑張れそう」
「……上手くいくと良いね」
「ええ」

 戦の前の腹ごしらえと刀真の気遣いを経て、より前向きな感覚を得た。鏡花は準備を済ませて。

「いってきますお兄さん」
「いってらっしゃいお嬢様」

 特別な挨拶はせずいつも通りのやり取りをして、家を出た。外に出ると歓迎するような温かな日差しに照らされて、その中を歩き久しぶりの自分の家へと向かった。


 ※


「……」

 徒歩十数分で着いてしまう。心の準備は出来ているとはいえ、分かっていてもその早さに少し面食らってしまう。

 刀真住むアパートの一部屋とは段違いの大きさの一戸建ての自宅。黒を基調とした色合いでモダンの作り、周囲の家とは一回りくらいの広さがあり、二階建てであり二人で住むにも持て余している。前まで当たり前のように帰っていた家だな、今は完全アウェイとなっていた。

「よし」

 意を決してインターホンを押す。数秒待っている間に声が聞こえた。

「はーい、今開けるね」

 声の主はこの家の唯一の安心要素である茜だった。おかげで体に入っていた力が緩和する。

「おはよう鏡花ちゃん」
「おはよう茜さん」

 玄関から茜が顔を出す。変わらない彼女の姿を見るとそれにつられて少し平常を取り戻せる。

「……大丈夫?」
「茜さんがいるし、それにお兄さんにも応援されたから」

 それは自分に言い聞かせるようにはっきりと口にした。

「強いなぁ鏡花ちゃんは。逆にあたしの方が緊張して大丈夫じゃないよー」
「ふふっ、お兄さんと同じ事言ってる」
「本当っ? なら嬉しいかも」

 今の状況でいつものテンション感を出されて思わず笑ってしまう。

「さてと、鏡花ちゃんの可愛い笑顔も見れたしそろそろ行こっか」
「……もう」

 もっとシリアスな心持ちで家に入るつもりが茜によってふんわりとさせられてしまった。

「ありがと茜さん」

 それが彼女なりの優しさなのもわかって、小さな声で感謝を伝えた。

「きっと大丈夫だよ。じゃあ、入る?」
「ええ」

 そうして鏡花は茜と共に帰宅した。