「あ、そうだ。その前に聞きたいことがあったんだ」
「何かしら」
「昔のお嬢様とお父さんってどんな感じだったのかなって。もちろん、話したくなければいいんだけど」
そう尋ねると鏡花は悩ましげな声を出しつつも、話してくれる。
「昔は……お母さんがまだいた頃は、もうちょっと仲良かった気がする。低学年くらいの時だったからいまいち覚えてないんだけど」
「お母さんがいた頃……」
「そういえばお兄さんが言ってなかったね。お母さん、元々体が弱くて病気で死んじゃったの。それ以来からかな、お父さんが色々厳しくなったのは。」
刀真は厳しい家庭だなと思っていたが、そういう過去を聞かされると、気持ちがわかってしまう部分が出てくる。
「最初は特に嫌とかはなかったわ。けど、歳を重ねて、ネットを見たり友達の話を聞いたりしていたら、周りがキラキラして見えて段々と嫌になって、今に至るわ」
「じゃあ、それまではお父さんと仲良かったんだ」
「お母さんがいた時よりはぎこちなかったけど、今よりもちゃんとお話していたと思う」
そう過去を話す鏡花はとても寂しそうにしていた。
「きっと、お父さんは心配なんだろうね。だからつい色々言っちゃう」
「それは……でも私の事を思うならそれが嫌だってわかってくれれば良いのに。やっぱり好きじゃないんだよ」
不貞腐れたような言い方は年相応で、娘らしいなと場違いに思ってしまった。
「でも、このままじゃ良くないとは思ってるんだよね?」
「それは……」
「自分の気持ちに蓋をしない方が良いよ。自分を苦しめて、きっといつか後悔する」
刀真は鏡花の現状を自分と重ね合わせて見ていた。動きたいけど、何か一つきっかけを求めている。背を押してくれるのを待っている。そう思えた。
「といっても俺も親と向き合えてないから人の事は言えないけどさ」
「お兄さんも同じだったわね」
「姉ちゃんに向き合うべきって言われちゃってさ、そうするべきなんだよなって思ってるんだけど、勇気が出なくてさ。誰かに背を押して欲しい、みたいな感じで」
「背中を……」
改めて口に出すと、少し自分が情けなくなってくる。年上で大人でもあるのに誰かの助けを求めていると弱音を吐いているのは。
「ごめん、本当なら年上の俺がお嬢様の背中を押す立場なのに、ダメダメで……。ゲームも何もかも上手く出来ないし、俺は本当に終わってるよね」
「ゲームとかは擁護できないけれど、終わってはいないわ。お兄さんは頑張っているもの」
「そ、そっか……でもゲームに関してのフォローは」
「ごめん」
「そうですか……」
慰めと攻撃を同時に受けて感情をどう処理して良いかわからなくなる。
「で、でもダメダメだからこそ頑張ってる姿を見ると私もって気持ちになるところはあるかなーって」
「うぅ……」
そのフォローを受けるとさらに悲しくなってくる。
「……あ」
だがダメージを受けた中で、ぴかりと先が見えない闇の中が光るように一つのアイデアが現れる。その瞬間に背中に感じていた布団から柔らかな弾力を感じ、先へ進めと押されたような気がした。
「どうしたの?」
「いや」
いつの間にか目が暗闇に慣れた事で、刀真は微かにだが鏡花の姿が見えるようになっていた。
「俺も、頑張ってる姿って勇気を貰えるなって思っただけ。スポーツ選手の活躍を見たりすると俺もってなるよね」
色々と上手くこなせなくても頑張る事くらいは出来る、その自信だけはあった。
「勇気を――お兄さん――は」
その間にも鏡花が何かを小さく呟いていたが、思考にリソースを割いていてあまり聞き取れなかった。
「……でも」
何かが動くその予感は確かにあったが、その思いつきは、閃いた興奮が落ち着いてくると不安も溢れ出してきた。そうすべきだと前のめりになる気持ちと、恐ろしく止まりたいという二つの想いが摩擦を起こして精神と思考をすり減らしていた。
『はっきりさせた方がいいと思うんだよね。もし勘違いなら正すべきだし、そうじゃなかったとしても曖昧なままだとずっと悩み続ける気がするの、とうくんの性格だと』
姉の言葉とその存在を思い返すと、揺れるシーソーゲームに決着が付いた。
「やるしか……」
「お兄さん?」
「ううん、何でもないよ」
すると、疲れとスッキリした安心感から次第に眠気が襲ってきて、目を瞑った。やるべき事を決めたことからか、刀真の心身は新たな熱を帯びていた。
「私……は」
意識が薄れていく中、鏡花の声が聞こえるも、何を言っているか認識する前に眠りに落ちてしまう。だが、その呟いた言葉の輪郭からは確かな力強さだけは感じ取れた。
「何かしら」
「昔のお嬢様とお父さんってどんな感じだったのかなって。もちろん、話したくなければいいんだけど」
そう尋ねると鏡花は悩ましげな声を出しつつも、話してくれる。
「昔は……お母さんがまだいた頃は、もうちょっと仲良かった気がする。低学年くらいの時だったからいまいち覚えてないんだけど」
「お母さんがいた頃……」
「そういえばお兄さんが言ってなかったね。お母さん、元々体が弱くて病気で死んじゃったの。それ以来からかな、お父さんが色々厳しくなったのは。」
刀真は厳しい家庭だなと思っていたが、そういう過去を聞かされると、気持ちがわかってしまう部分が出てくる。
「最初は特に嫌とかはなかったわ。けど、歳を重ねて、ネットを見たり友達の話を聞いたりしていたら、周りがキラキラして見えて段々と嫌になって、今に至るわ」
「じゃあ、それまではお父さんと仲良かったんだ」
「お母さんがいた時よりはぎこちなかったけど、今よりもちゃんとお話していたと思う」
そう過去を話す鏡花はとても寂しそうにしていた。
「きっと、お父さんは心配なんだろうね。だからつい色々言っちゃう」
「それは……でも私の事を思うならそれが嫌だってわかってくれれば良いのに。やっぱり好きじゃないんだよ」
不貞腐れたような言い方は年相応で、娘らしいなと場違いに思ってしまった。
「でも、このままじゃ良くないとは思ってるんだよね?」
「それは……」
「自分の気持ちに蓋をしない方が良いよ。自分を苦しめて、きっといつか後悔する」
刀真は鏡花の現状を自分と重ね合わせて見ていた。動きたいけど、何か一つきっかけを求めている。背を押してくれるのを待っている。そう思えた。
「といっても俺も親と向き合えてないから人の事は言えないけどさ」
「お兄さんも同じだったわね」
「姉ちゃんに向き合うべきって言われちゃってさ、そうするべきなんだよなって思ってるんだけど、勇気が出なくてさ。誰かに背を押して欲しい、みたいな感じで」
「背中を……」
改めて口に出すと、少し自分が情けなくなってくる。年上で大人でもあるのに誰かの助けを求めていると弱音を吐いているのは。
「ごめん、本当なら年上の俺がお嬢様の背中を押す立場なのに、ダメダメで……。ゲームも何もかも上手く出来ないし、俺は本当に終わってるよね」
「ゲームとかは擁護できないけれど、終わってはいないわ。お兄さんは頑張っているもの」
「そ、そっか……でもゲームに関してのフォローは」
「ごめん」
「そうですか……」
慰めと攻撃を同時に受けて感情をどう処理して良いかわからなくなる。
「で、でもダメダメだからこそ頑張ってる姿を見ると私もって気持ちになるところはあるかなーって」
「うぅ……」
そのフォローを受けるとさらに悲しくなってくる。
「……あ」
だがダメージを受けた中で、ぴかりと先が見えない闇の中が光るように一つのアイデアが現れる。その瞬間に背中に感じていた布団から柔らかな弾力を感じ、先へ進めと押されたような気がした。
「どうしたの?」
「いや」
いつの間にか目が暗闇に慣れた事で、刀真は微かにだが鏡花の姿が見えるようになっていた。
「俺も、頑張ってる姿って勇気を貰えるなって思っただけ。スポーツ選手の活躍を見たりすると俺もってなるよね」
色々と上手くこなせなくても頑張る事くらいは出来る、その自信だけはあった。
「勇気を――お兄さん――は」
その間にも鏡花が何かを小さく呟いていたが、思考にリソースを割いていてあまり聞き取れなかった。
「……でも」
何かが動くその予感は確かにあったが、その思いつきは、閃いた興奮が落ち着いてくると不安も溢れ出してきた。そうすべきだと前のめりになる気持ちと、恐ろしく止まりたいという二つの想いが摩擦を起こして精神と思考をすり減らしていた。
『はっきりさせた方がいいと思うんだよね。もし勘違いなら正すべきだし、そうじゃなかったとしても曖昧なままだとずっと悩み続ける気がするの、とうくんの性格だと』
姉の言葉とその存在を思い返すと、揺れるシーソーゲームに決着が付いた。
「やるしか……」
「お兄さん?」
「ううん、何でもないよ」
すると、疲れとスッキリした安心感から次第に眠気が襲ってきて、目を瞑った。やるべき事を決めたことからか、刀真の心身は新たな熱を帯びていた。
「私……は」
意識が薄れていく中、鏡花の声が聞こえるも、何を言っているか認識する前に眠りに落ちてしまう。だが、その呟いた言葉の輪郭からは確かな力強さだけは感じ取れた。



