シャーロットサイド
動物園の人影がまばらになるこの時間帯。私はフェンス越しに三人の女子と二人の男子で構成されたグループを選ぶ。周囲に他の来園者はいないようですね。ディルタのメンバーはこの中に混じっていないと信じたいです。そう思って、近くにいた女子に話しかける。仮に女子Aとでもしましょうか。

「すみません、人を探してるんですけど」

「お名前は?」

警戒の色が全く見えない瞳に、私は微笑みを浮かべた。

「シャーロットです」

「シャーロットちゃんね。探している人の写真とかはある?」

「あります。少し待っててください!」

私は肩掛けのバッグの中を探り、あらかじめ用意していた写真を取り出す。

「……進は、どこですか?」

私は一段と声を低くする。両手に持った写真を握りしめるように見せた。女子Aは眉をひそめて戸惑いの表情を浮かべる。

「それ、どういう意味?」

その言葉を合図に、私は右手のナイフを鞘から抜き、左手の写真を細かな紙片へと断ち切る。

「この世から、さよならしてもらいます。さあ、場所を教えてください。さもなくば……」

声と同時に、私の手首が鋭くはね、一本のナイフが空間を切り裂く。

「言う気になるまで、痛めつけるまでです」

しかし、少女Aの反射速度は想像以上に早かった。ナイフがかすめた頬の傷口からは瞬く間に血がにじむ。……不快です。避けられるなんて。

「あれー、避けられちゃいましたか。なら、これはどうです?」

左右四方向へと次々に投じられる四本のナイフ。これまでの被検体は必ず一本は刺さったはずです。女子Aがそれに気づいたのか、目をぎゅっと瞑る。もう、遅いですよ。
そのとき、予想外のことが起きた。あの女子Aの隣にいた男子、男子Bが動いたのだ。男子Bは、ナイフを口で1本咥え、右手と左手で1本ずつナイフを掴み、最後の1本は足で地面に叩き落とす。

「……すばらしいです。これまでの数多くの人の中で四本同時に制御できたのはあなたが初めてです。面白いものを見せてくださり、ありがとうございます」

頬をわずかに紅潮させながら、私は刃を抜きなおす。そこへ、少女Cが、私の間合いを詰めて右ストレートを放った。私のみぞおちに女子Cの拳が突き刺さる。息が凍り付く痛みが背筋を駆け巡る。
……最悪です。話してる途中に殴りかかってくるとか、言語道断ですよ。少しばかり、頭がひねくれてらっしゃるのでは?私は頬をぷくりと膨らませる。

「……許しませんよ。そのまま大人しく、私のナイフで八つ裂きにされちゃってください!」

すると、女子Cは、近くの男子、Dに耳打ちする。

「先生、呼んできて」

かすかに聞こえましたよ、今。小さく頷いて走り出した男子Dに向けてナイフを飛ばす。

「行かせません!」

私が攻撃を再開しようとした瞬間、間合いの外から硬質な衝撃音が響いた。松ぼっくりが物凄い勢いで飛んで来て、頭上をかすめて着地する。……まさか、あの松ぼっくりが?
訝しむ間もなく、もう一発背後から飛来する。私は回避するために体をひねったが、次の一撃を避けられるか否かの刹那、私は誰かに腕をつかまれ、引っ張られた。カルロッタさんだ。

「大丈夫ですか、シャーロット」

補佐の柔らかな声とともに、頬に触れた温もりに胸の奥がときめく。

「カルロッタさん!?なんで……」

私の頬に少し赤みが差す。カルロッタさん、相変わらずお優しいです……っ!

「……危なそうだったので。こちらはもういいですよ。本命が見つかったので」

私は思わず頷き、急いでナイフを回収し、松ぼっくりの粉が舞う、戦場だった場所を後にした。仁藤進の在り処を求め、カルロッタさんに忠実について行く。
周囲の喧騒が、まるで遠い夢のように揺らいでいた。