「そして、何故……」

そこで動きをピタッと止める。

「進くんは、家にも学校にもいないのでしょうか」

茜さんが、かすれた、小さな声で言う。

「……ない……です」

「え?」

茜さんがすごく焦った様子でまくし立てる。

「私、進が謹慎処分なんて……進から聞いてません!」

「暴力行為で謹慎になってますけど。今日は期間が終わったので登校を促しに来ました」

「……そんな……」

ぼくは少し黙って考え込む。

「ご家庭で、何かトラブルとか、ありました?」

「え……?」

「いえ……取り乱し方が少し気になりまして。お話を聞くことも可能ですが……。つらいことをため込んでも仕方ありませんしね」

茜さんが目に涙をためてしゃべりだす。

「私……もう、どうしたらいいかわかんなくって……」

……ぼくなんか悪いことしたっけ?茜さんが涙を拭いながら言う。

「すみません。疲れてて、実は最近子供たちのめんどうもなかなか見てやれなくて……。進が入学したら家族みんなで旅行しようねって話してたんです。その時はみんな元気で……。でも……」

段々声のトーンが下がっていって、気まずくなる。

「あのー……辛くなってしまうようでしたら無理にお話しいただかなくても……」

「え?」

「別にぼくたちは茜さんを泣かせるためにここに来たわけではありませんし……」

「……すみません。お話し……できそうにないです」

「わかりました。では、進くんはこちらでも捜索させていただきますね」

ぼくは陽眼に話が終わったことを告げ、茜さんと進くんの兄弟に手を振って進くんの家を後にした。少しして、陽眼が口を開く。

「……さて。まずは進を探すところからになってしまったのぉ」

「案外早く見つかったりして……」

「なんで?」

「進くんのお父さんの居場所を、さっき牧に教えてもらったから」

どこであんな情報拾ってんだか。

「じゃあ取りあえず、そこ向かうか」

歩いている途中、ふと気になったことを陽眼に聞く。

「そういえば、陽眼の仕事って何なの?電話来てから秒で学校来たじゃん?」

そういうと、陽眼は数秒黙って、ぼくの両頬をつねる。

「ないしょ♡」

「なんで?牧に言ったら牧に笑われたから」

「うわ牧ひどっ」

少し歩くと、大きな建物が見えてきた。ずっしりと構えてて、見下されてる感じ。……なんかウザい。建物の右の方には国旗が立っている。一階から三階まであって、全部の階にたくさんの部屋がある。正門の上の二階と三階の部分にたくさんの四角が敷き詰められてできた網目模様がある。国の数カ所に1個ずつある建物で、結構珍しいと思う。

「ついたよ」

「あれ、ここって……」

「てってれーん☆刑務所でした〜。いぇーい」

右手でピースをすると、陽眼が焦ったような声で言う。

「……進のお父さんは、刑務所にお勤めして……」

「ると思った?さっきの茜さんの涙見といて?」

「……マジか」

「……マジだ」

「ピースでもいぇーいでも無いじゃろ」

まぁそうだけど。暗くいくより盛り上げて軽く行きたかったんだよね。

「とりあえず面会してこようと思ったんだけど、今更家族や仕事先の人以外面会できないことに気づいたんだよね」

「仁ってたまに馬鹿になるよな」

「うるさい。……とりあえず行ってみよーよ」

面会受付所の扉を開け、受付の女の人に声をかける。

「あの〜……」

「面会の受付でしょうか」

サバサバした人だなぁ。淡々としてるっていうか……。

「あ、そうなんですけど……受刑者の家族以外は面会できないんですよね?」

「はい」

「お話だけでもできませんか?」

「はい」

……言葉変えればいけると思ったのに。……おとなしくだまされてほしかった…。

「んー……困ったのぉ。電話もできないしのー」

「まぁ……牢屋の中だしね」

陽眼が受付の人に向かって言う。

「じゃあ、貴方がたに用件を伝えるので、貴方がた経由で受刑者とお話し、というのは……」

「なぜそこまでするんですか?」

受付の人がイライラしてる。うわぁ……。短気だなぁ……。

「ここに捕まってる人のお子さんが今は学校の時間なのに学校にも家にもいないんです。で、その後のクラスの担任なんで、手がかり探しに来ました」

本当は警察に頼んで捜索してもらうべきなんだけど、まぁ、お金かかるらしいし。

「それでもルールはルールです。ダメなものはダメです」

こういう人のことってなんていうんだっけ……。あ、そう、頑固だ。意固地。少しのあいだ揉めていると、奥から、なんかくらいの高そうな男の人が来た。

「どうしたのですか?少しばかり騒々しいように思えたのですが……。何かありました?」