囚人回路

「すみません、家の子たちが……。ご迷惑おかけして、申し訳ないです」

「大丈夫ですよ。ぼくの弟も、比べものにならないぐらいうるさいので」

「あ、あと仕事から抜け出してきたのでエプロンつけたままなんですが……」

「大丈夫ですよ。服にイチャモンってるようなやつじゃないんで」

成程、急いで抜けてきたから息切れしてるわけか。助かる。流石に来るのが遅くなりすぎるとぼくも帰りたくなるからね。とりあえず、家の中に入れてもらった。

「お邪魔します」

中に入ると、玄関に、ズラッと十足ぐらいの靴が並べてあったことに真っ先に目が行った。それに、さっきの騒がしさが嘘だったかのように静かだった。下駄箱の上には家族写真などが置いてあった。見ていると、一つだけ何かが引っかかる写真があった。進くんのお父さんとお母さん、それに男の子が一人と女の子が一人……?さっき男の子の声しか聞こえなかったけど……。……まぁ、いっか、あんま気にしなくても。ちなみに、進くんのお父さんは透さん、進くんのお母さんは茜さんと言うらしい。茜さんが家の奥に向かって声をかける。

「はぁ……全員、隠れてないで出てきなさい!」

茜さんが家の壁を軽くコンコンと叩くと、つらつらと言葉を並べ始めた。

「苺は居間の机の下。杏はお父さんの部屋ね。烏は台所でしょ。九……おしいれの中。響はバスタブの中で、勇と光は寝室……。出てきなさい!また誰か脅かすつもりだったんでしょ」

家の奥で「またバレた……」とがっかりした声が聞こえる。

「当たり前でしょ。能力使ってるんだから。全く」

茜さんの言う「能力」は、この地球でしか使えない力で、第二の地球にいる人の約8割が持っている、人が生まれながらに持っている能力を好きなように扱える能力だ。
ただ、人によって能力の内容は違う。例えば、ぼくの場合、能力は「ジャンプ」だ。
一見つまらないものに見えるが、どれだけ高くだって、どれだけ遠くだって飛ぶことができる。もちろんジャンプをしたら落ちることには変わりがないけれど、この能力を使えば落ちた時の衝撃が少なくてすむ。
また、能力ごとに髪を染めて、誰でも誰がどの能力を持っているのか、色と能力を暗記していれば秒でわかるシステムになっている。
茜さんは赤銅色だから、「振動」の能力のはずだ。微々たる振動を感知し、その振動によって目を開かなくても形がわかるというもの。他にもいろいろ使い方があるのかもしれないけど、少なくともぼくは知らない。というか、考えたことがない。
そして、能力を使った後は必ず反作用が起こる。ジャンプの能力の場合はいつもより重力が大きく感じ流ようになっている。

「居間に置いてある椅子に座ってお話しましょう」

居間に通されたぼくは、机の下に入れてある椅子を引いて座る。陽眼は進くんの弟くんだと思われる子たちと遊んでいる。

「改めまして、ぼくは日の出小中高一貫校の1ーC担任、朝倉仁です。もう一人の図体でかいやつはぼくの連れです。よろしくお願いします。……それで、気になることというか、聞きたいことがあって……。今日ここに来たのとは関係ないんですけど」

ソワソワして聞くと、茜さんが少しこいつバカじゃね?って声で「はい……」と答える。本当はこいつバカじゃね、とか思ってないかもしれないけど。

「お子さん多いんですね」

「あー……。よく言われます。八人兄弟なんて、今の時代、そう簡単に見つけられないくらい大家族ですしね」

いや、昔でもそれは多すぎる!って言われれると思う。

「最初に産んだのが双子で……。で、子育て始めたら楽しくなってきて、調子に乗って…年子とかバンバン出産したからだと……」

「じゃあ、あとふたつ質問です」

こっからは真面目だ。息をゆっくり吐いて、ゆらぁと首を傾げて聞く。

「先程、進くんの兄弟の一人が、進くんは『普通に学校に行っていた』と言っていましたが、学校の方では、進くんは初等部卒業直前で謹慎処分をしています。どういうことでしょうか」

「え?」

「そして、何故……」

そこで動きをピタッと止める。

「進くんは、家にも学校にもいないのでしょうか」