高層ビルの立ち並ぶ街の中。ぼくたちは職員玄関から外に出て、街のど真ん中に立ち尽くしている。不意に陽眼が口を開く。

「で、何すんじゃ?」

「……え?」

「ん?」

「嘘ついてない?」

「嘘ついてない!」

何するのって……知らないの?……ちょっと待って。じゃあ、さっき……。

「電話で何話してたの?」

「え〜……。牧から電話かかってきて」

「うん」

確か陽眼の家も黒電話使ってるんだよね。使うとなんか得するのかなぁ……。得するならぜひとも使いたいものだけど。

「久しぶりって言われたから久しぶりって返したら」

「うん」

「今すぐ来てって言われたから」

「うん」

「全速力で走ってきた」

「あー……なるほどね?うん……」

一生懸命走ってきてもらったのに申し訳ない。

「そこまで大事じゃなくてね」

すると、陽眼は顔色一つ変えずに言う。

「あー……やっぱり?」

「気づいてたの?」

「まぁ……あんな明るい声で大事だったら精神狂っとるじゃろ」

確かにそうだ。牧、バカだけどそこまで精神狂ってないしね。

「とりあえず歩きながら喋るよ」

「ん」

スタスタと歩きながら義朝のことを思い出してポツリと呟く。

「それにしても、義朝にもついてきてほしかったなぁ……」

「いや、義朝は授業じゃろ。……あれ?」

陽眼が、やっと不自然なことに気がつく。

「仁、授業は?」

「あったのに無くなった」

「……は?」

義朝と同じ反応してる。面白……。

「いや、ぼくさ、1ーCの担任なんだけど」

「え?」

「生徒誰一人いなくて」

「ん?」

「不登校だって」

「いや、めっちゃ大事じゃん」

めちゃくちゃ焦った顔で言われる。

「そう?」

「そうじゃろ」

……まぁ、確かに働けないってことを考えたら大事かも。……てことは、牧、精神狂ってるんだ。かわいそ。

「じゃあ、わしは生徒集めるのを協力するために呼ばれたんか?」

「そーそー」

「誰から、とか決まっとんのか?」

「まだ……」

そういいながら名簿を開く。……十三人か。梅咲琴音さん、要大鳥くん、光耀和葉さん、進海斗くん、助太刀要さん、斗鬼小梅さん、鳥羽光くん、波風かすみさん、仁藤進くん、音室陽助くん、野村由伊……さん、葉月鈴さん、鈴道幸くん。誰にしたいとかの願望もないので、適当に神様に聞いてみることにした。

「誰にしーよーかな、天の神様の言うとーり!……仁藤進くん。暴力行為で謹慎受けてた子だ」

「謹慎の期間が始業式の日には終わってるってことは、初等部からいたんじゃな」

「そうみたい。素行とかすごく悪かったらしいよ」

「まあ、暴力行為で謹慎とか言われてる子じゃしな」

「とりあえず、進くんの家行ってみよっか」

あー……お腹すいたなぁ……。進くんの家って自営業でカフェやってるんだっけ。喋ったあとはそこでご飯食べよ。そんなことを考えている間に進くんの家に着いてしまった。

「ドアーチャイム鳴らすぞ」

「うん」

チャイムが鳴ると、中から男の子の声が聞こえてきた。

『はーい』

「えー、日の出小中高一貫校の中等部1ーC担任、朝倉です。えっと……」

そういうと、大きな声が飛んできた。

『すーむおにいの先生だー!』

『男かぁ……』

『いや、兄ちゃんにはかすみ姉ちゃんがいるから』

『でも、最近会ってないし……』

進くんはかすみさんと何か関わりがあったりとかするのだろうか。もしくは別のかすみさんっていう人と関わりがあるのか……。

『……先生来てるけど、進、なんかやらかしたのかなぁ』

『でも去年、普通に学校行ってたよね?』

男の子の声多いなー……。兄弟何人いるんだろ。と、急に女の人の声が飛んでくる。

『こら!静かに!迷惑かけないの!うるさいでしょ』

少しバタバタと音がして、少しすると玄関のドアが開いた。
……中から出て来たのは、目立ったピアスを付けた、少し厳しそうな女の人だった。