目の前に座っているのはぼくの義弟で、この学校の理事長、遠野牧だ。じゃあなんで義兄弟なのに苗字が違うのかというと、まぁ単純に遠野先生が学校に二人もいるとわかりづらいからぼくが旧姓で活動しているからだ。
「……話聞いてたか?」
「うん」
「じゃあなんでわかんねーんだよ」
「……聞いてなかったから?」
牧がさも当たり前のように言う。また怒られるよ?別に怒られたいならぼくも気にしないけど……。
「聞いてなかったんじゃねーか。……はあ。あのなぁ」
と、牧がガタッと音を立てて立ち上がる。
「あ、一旦ストップ!」
「……なんだよ」
「幸せが、逃げちゃうよー!」
「……は?あと座れ」
牧がおとなしく座り、一息ついてから質問する。
「あれ?義朝くん、ため息つくと幸せが逃げるって知らない?」
「いや、知ってるけど……」
「最近義朝くんため息つきすぎなのー!」
これは誰が聞いても呆れるセリフだ。義朝は顔色変えず質問をする。
「じゃあ一つ質問させろ。オレがため息をつくのは誰のせいだ?」
あー、怒ってる。義朝、顔が怖いよ。強張ってる。牧は目をパチクリと一度瞬きをして、くるっとぼくの方に振り返る。ぼくがじっと牧を見つめると、牧はバツが悪そうな顔をして少し下を向く。
「えっと……ごめんなさい」
「よろしい。それで……」
「あ、一旦ストップ」
すかさず牧の言葉が飛ぶ。ここでもストップかけるんだ。
「次は何だよ」
「てんとう虫だ!」
「虫?」
「うん。かわいい〜!」
「オレの話は?」
「待ってて!ボク、生きているものは放っておけないんだ」
「その精神は素晴らしいと思う。だが……オレも生きているが?」
正論すぎる。正論すぎて何も言えない。と、牧が急に大声を上げる。
「あ〜!」
「そろそろ飽きてきたんだが」
もう義朝はイライラを越してめんどくさくなってきたみたいだ。
「いーから見てー!」
「だから……」
「は?いいから見ろよ」
「急にえらそうになった……」
義朝が顔をしかめ、嫌な気持ちをあらわにすると、牧がさも当たり前のように言う。
「だってボク偉いもん」
「あ」
「やろうと思えば、みんなのことすぐにそろってクビにできるんだからね?」
「そうだった……」
牧が義朝の小さな「そうだった」の声に反応する。
「そうだった、ってなにさ」
「いや、未だに牧が理事長ってことが信じられなくて」
「ひどっ!?もう二十年の付き合い……だよね!?」
「そうだよ。だから信じられないんだろ」
必死に訴える牧に、素直に、率直すぎるぐらいににズバズバと物を言う義朝。牧、かわいそ。まぁ、こんなこと思っているぼくも正直言って牧が理事長ってことが信じらん無いんだけどね。こんな子供っぽい成人男性が理事長とか不安でしか無いからね。生徒から見ても、保護者の方から見ても、教師側もしても。よく理事長とかなれたね…。まぁ、この学校の理事長は前理事長の子供のうちの一番上の子が代々受け継いでいるから仕方ないんだけど。牧が雷に打たれたような顔をしてから少し拗ねてポツリと呟く。
「窓の外見てほしかっただけなのに……」
「窓?」
「うん……」
そんな2人の会話を軽く聞き流しながら考える。ぼくたち、何のためにここ来たんだっけ……。
「虹か」
「うん!そう!」
義朝の言葉に、無意識に振り返る。そっか、さっきまで雨降ってたもんね。牧はこれを見てほしかったわけか。今めっちゃ喜んでるし。
「ふぅん……。……で、話聞く気あんのか?」
義朝がガチギレしてる。牧はその顔を見てぎくりとして固まっている。そうだった、1ーCについて話に来たんだ!疑問解決。良かった良かった。
「無い……かも」
牧がほそぼそとした声で答え、それに対して義朝が大声で怒る。
「無ぇのかよ!無くてどーすんだよ!」
「ごめんなしゃい……。たしゅけて……」
義朝が牧を殴る。普通捕まるよ?牧だから許してくれてるだけで……。でも、そんな二人を見て思い切り二人を褒める。
「わー!面白いね、その漫才!どこで覚えたのー?」
なんでかよくわからないけど、義朝がキレ気味な声で答える。
「覚える気なんてねぇよ!」
「覚える気無いのに覚えちゃったの〜!?すごーい!」
「いや、だから……」
義朝の声量が落ちていく。牧はぼくに便乗して、ノーコメントでハイタッチをせがんでくる。
「でしょー!?すごいでしよ!?」
「うん!さすがほくの義弟!」
「えへへー。ありがとー!」
そんな話をしていると、牧の背後からスッ……と義朝が現れた。思い切り牧の左耳を引っ張っている。
「痛い痛い痛い痛い痛い!」
うん、ぐぐぐぐ……って音しそうだもん。めっちゃ痛そう。……と、義朝がぼくの肩をつかむ。あー、ギチギチいってるよ。ぼくの肩壊れちゃう。義朝が無理矢理牧をソファーに座らせる。数分後、牧が喋り始めた。
「それで……今日はどうしたの?仁くん、義朝くん(本日二回目)」
真っ赤に腫れている牧の左耳をかわいそうに思いつつ、義朝がしゃべるのをのんびりと聞く。
「1ーCが……」
「あー、1ーCね!なんで生徒が全然いないのか気になったんでしょ?」
「そうだけど……」
「それはこっちの都合じゃなくて〜。なんと……」
あ、てことはクビではないのか!よかった……。
この学校の教師以外なる気無いからね。一度クビになっても清掃員として働いてこの学校で仕事したいっていうのは変わらないし。牧は5秒程溜めに溜めて言う。その言葉に、ぼくたちは目を丸くした。
「……え?」
「……話聞いてたか?」
「うん」
「じゃあなんでわかんねーんだよ」
「……聞いてなかったから?」
牧がさも当たり前のように言う。また怒られるよ?別に怒られたいならぼくも気にしないけど……。
「聞いてなかったんじゃねーか。……はあ。あのなぁ」
と、牧がガタッと音を立てて立ち上がる。
「あ、一旦ストップ!」
「……なんだよ」
「幸せが、逃げちゃうよー!」
「……は?あと座れ」
牧がおとなしく座り、一息ついてから質問する。
「あれ?義朝くん、ため息つくと幸せが逃げるって知らない?」
「いや、知ってるけど……」
「最近義朝くんため息つきすぎなのー!」
これは誰が聞いても呆れるセリフだ。義朝は顔色変えず質問をする。
「じゃあ一つ質問させろ。オレがため息をつくのは誰のせいだ?」
あー、怒ってる。義朝、顔が怖いよ。強張ってる。牧は目をパチクリと一度瞬きをして、くるっとぼくの方に振り返る。ぼくがじっと牧を見つめると、牧はバツが悪そうな顔をして少し下を向く。
「えっと……ごめんなさい」
「よろしい。それで……」
「あ、一旦ストップ」
すかさず牧の言葉が飛ぶ。ここでもストップかけるんだ。
「次は何だよ」
「てんとう虫だ!」
「虫?」
「うん。かわいい〜!」
「オレの話は?」
「待ってて!ボク、生きているものは放っておけないんだ」
「その精神は素晴らしいと思う。だが……オレも生きているが?」
正論すぎる。正論すぎて何も言えない。と、牧が急に大声を上げる。
「あ〜!」
「そろそろ飽きてきたんだが」
もう義朝はイライラを越してめんどくさくなってきたみたいだ。
「いーから見てー!」
「だから……」
「は?いいから見ろよ」
「急にえらそうになった……」
義朝が顔をしかめ、嫌な気持ちをあらわにすると、牧がさも当たり前のように言う。
「だってボク偉いもん」
「あ」
「やろうと思えば、みんなのことすぐにそろってクビにできるんだからね?」
「そうだった……」
牧が義朝の小さな「そうだった」の声に反応する。
「そうだった、ってなにさ」
「いや、未だに牧が理事長ってことが信じられなくて」
「ひどっ!?もう二十年の付き合い……だよね!?」
「そうだよ。だから信じられないんだろ」
必死に訴える牧に、素直に、率直すぎるぐらいににズバズバと物を言う義朝。牧、かわいそ。まぁ、こんなこと思っているぼくも正直言って牧が理事長ってことが信じらん無いんだけどね。こんな子供っぽい成人男性が理事長とか不安でしか無いからね。生徒から見ても、保護者の方から見ても、教師側もしても。よく理事長とかなれたね…。まぁ、この学校の理事長は前理事長の子供のうちの一番上の子が代々受け継いでいるから仕方ないんだけど。牧が雷に打たれたような顔をしてから少し拗ねてポツリと呟く。
「窓の外見てほしかっただけなのに……」
「窓?」
「うん……」
そんな2人の会話を軽く聞き流しながら考える。ぼくたち、何のためにここ来たんだっけ……。
「虹か」
「うん!そう!」
義朝の言葉に、無意識に振り返る。そっか、さっきまで雨降ってたもんね。牧はこれを見てほしかったわけか。今めっちゃ喜んでるし。
「ふぅん……。……で、話聞く気あんのか?」
義朝がガチギレしてる。牧はその顔を見てぎくりとして固まっている。そうだった、1ーCについて話に来たんだ!疑問解決。良かった良かった。
「無い……かも」
牧がほそぼそとした声で答え、それに対して義朝が大声で怒る。
「無ぇのかよ!無くてどーすんだよ!」
「ごめんなしゃい……。たしゅけて……」
義朝が牧を殴る。普通捕まるよ?牧だから許してくれてるだけで……。でも、そんな二人を見て思い切り二人を褒める。
「わー!面白いね、その漫才!どこで覚えたのー?」
なんでかよくわからないけど、義朝がキレ気味な声で答える。
「覚える気なんてねぇよ!」
「覚える気無いのに覚えちゃったの〜!?すごーい!」
「いや、だから……」
義朝の声量が落ちていく。牧はぼくに便乗して、ノーコメントでハイタッチをせがんでくる。
「でしょー!?すごいでしよ!?」
「うん!さすがほくの義弟!」
「えへへー。ありがとー!」
そんな話をしていると、牧の背後からスッ……と義朝が現れた。思い切り牧の左耳を引っ張っている。
「痛い痛い痛い痛い痛い!」
うん、ぐぐぐぐ……って音しそうだもん。めっちゃ痛そう。……と、義朝がぼくの肩をつかむ。あー、ギチギチいってるよ。ぼくの肩壊れちゃう。義朝が無理矢理牧をソファーに座らせる。数分後、牧が喋り始めた。
「それで……今日はどうしたの?仁くん、義朝くん(本日二回目)」
真っ赤に腫れている牧の左耳をかわいそうに思いつつ、義朝がしゃべるのをのんびりと聞く。
「1ーCが……」
「あー、1ーCね!なんで生徒が全然いないのか気になったんでしょ?」
「そうだけど……」
「それはこっちの都合じゃなくて〜。なんと……」
あ、てことはクビではないのか!よかった……。
この学校の教師以外なる気無いからね。一度クビになっても清掃員として働いてこの学校で仕事したいっていうのは変わらないし。牧は5秒程溜めに溜めて言う。その言葉に、ぼくたちは目を丸くした。
「……え?」


