「東!義朝は?」

『ベットに横になってるわ』

枕が東の代わりに返事する。

『39度も熱を出していたのよ』

温度計が教えてくれる。39度って、相当無理して学校来てたんじゃ……。

『倒れていたのよ、廊下に』

と、サボテン。さっきの音って義朝が倒れた音だったのか。あのとき、振り向いておけば、もっと早く助かったかもしれないのに。

『15分しか寝ていないからそっとしておいてあげて』

と、時計。こんなにも物が動いて、喋っているというのに東は少しも驚かない。なぜか?全て、東の腹話術だから。東の能力は腹話術らしい。謎。

「……僕に診察させて貰ってもいいですか」

ぼくがさっき許可したんだし、頷く他ないよね。

「わかりました、お好きなようにどうぞ」

「この方の内部に手を加えたりはしませんので、僕のせいで体調が悪化すると言うことは無いと思います」

ぼくはほっと息を吐いた。海斗くんは、カーテンの向こうに入っていく。すると、そこへ中等部の新聞部の人たちがやってきた。

「カメラマンの東岬陽でっす!」

「レポーター、編集係の陽内花園です」

「部長のっ!園宮幸太でーすっ!」

花園さんが冷静に状況を伝えてくれる。

「こちらで伊藤先生が倒れたのを診察してくださるような、医学に詳しい生徒がいるとお聞きして、新聞に載せられるかと思ってやって参りました。カメラマンと、部室を紅茶飲み場にしている人が騒がしくて申し訳ございません。こちらで情報を収集させていただきます」

真面目だなあ。一年生なのに新聞部の誰よりも真面目だ。三人は保健室の中を端から端まで調べ、何やらこそこそと話し合っている。そして、小さく頷いたかと思うと、記事をものすごい勢いで書き上げていく。つらつらと文字が並んでいき、あっという間に一枚完成してしまった。

『怪我はしていないようだけど』

と絆創膏。

「やっぱり…心配ね」

東がそう言った直後、海斗くんがカーテンの向こう側から顔を出す。

「よほど疲労しているみたいです。しっかり休めば元通り、元気に動けるようになりますよ。しばらくは安静にしておいた方がいいと思われます。先生は寮生活ですか?」

「そうですね、寮で暮らしています」

「なるほど、では保健室で休ませた方が良いかもしれませんね。寮の布団は硬いと聞きますし」

花園さんたちはもう一度何かを話して、新聞に言葉を追加する。新聞をくるくると丸めると、立ち上がって保健室の入り口まで向かう。

「「「ありがとうございました」」」

そう言ってペコリとお辞儀をして、どこかに帰っていった。……あれ、あの三人って授業時間じゃ……。まぁ、なんでもいっか。ぼく、関係無いし。少しすると、義朝が目を覚ました。

「義朝!」

「仁……帰ってきてたんだな」

「今はそれより自分を大事にして。義朝、廊下で倒れちゃったんだよ。疲れすぎてたみたいで。体が強引に自分を休めようとしてるんだからね。そんなになるまでやらなくていいんだよ。なんで出勤したの?」

「行かないと牧が心配して寮まで来るから」

……確かに牧だったらやりそう。だったら出勤した方が良いと思ったんだ。うーん、納得できたような、できてないような……?

「とりあえず、もう一人連れて来れたんだな」

「うん」

義朝がベットから上半身を起こし、海斗くんに向かっていう。

「今日はありがとう」

「……何故、ですか」

「診察してくれたのはお前じゃ無いのか?」

「いえ……。何故、それを」

「仁の表情から何でも読み取れる」

「無表情なのに?」

義朝はしっかりと頷いて笑った。

「ああ。もちろん」