海斗くんは、何も答えなかった。進くんはひたすらにドアノブを握りながら怒鳴り続ける。

「お前の親父が、そんなことしてなけりゃ、オレの親父だってまだ一緒に過ごせてたのに!なんで、なんで……!」

海斗くんは、何も答えずに進くんの声を聞き続ける。と、その時、急にぼくのガラケーの着信音が鳴った。ぼくはポケットからガラケーを取り出して耳に当てる。

「すみません、電話が来てしまったので。……もしもし」

電話から女の人の声が流れ出る。

『仁か?今すぐ戻って来い。義朝が倒れた』

義朝が、倒れた……?ぼくの動きが一瞬固まる。

「わかった。すぐ行くね」

そう言って電話を切り、進くんに向き直る。

「進くん、ぼくの同僚が倒れたとの連絡が来たので、ぼくは学校へ戻ります。進くんはどうしますか?そこで海斗くんに向かって怒鳴り続けますか?それとも少しぐらい学校のことを知りに行きますか?」

進くんはきゅっと口を結んでから、小さく口を開けた。

「学校……に、行く」

「わかりました」

ぼくは扉の向こうに向かって話しかける。

「それで、海斗くんはどうしますか?」

「どう……って」

「海斗くんは幼い頃から医学を学んでいるんですよね」

海斗くんがはっと息を呑む。

「そこでウジウジと引きこもっていたいですか?簡単なものではあっても実践授業を受けに行きますか?」

海斗くんは何も答えない。ぼくはさらに追い打ちをかける。

「いいですか、この世には貴方のように望んで不登校になる人もいれば、行きたいのに外に出れない人もいます。ぼくも、昔は外に出してもらえませんでした。わかりますか?ぼくからしたらその歳から自由に外に出られて、羨ましい限りなんです。そんな有難いことを、貴方は突っぱねるんですね」

海斗くんの部屋の扉が少し開く。

「たまには運動や日に当たる行動をしないと体に悪いので。……着いて行きます」

海斗くんは、気まずそうな顔で部屋から出てくる。ぼくは海斗くんが靴を履いたのを確認して自分も靴を履く。全員が靴を履いて外に出る。ぼくは二人に一言告げる。

「ごめんなさい、嫌だったら学校まで歩いてくださいね」

そう言って二人を肩の上に担ぎ上げる。

「ちょ……っ、何するんですか」

「離せよ!」

ぼくはフル無視して暴れる二人を押さえつける。

「今から、飛びますよ」

「は?」「え?」

二人の声が重なった瞬間、ぼくの足が地面から離れる。能力使えば学校までそんなに時間もかからない。ぼくは軽々とそこらの家を飛び越え、学校の保健室の窓の前に降り立つ。進くんと海斗くんを地面にそっと下ろし、窓をノックする。すると、中にいた養護教諭さんがこっちに気がつく。養護教諭さんは窓の横にある、外と繋がってる扉の鍵を開けて中に入れてくれる。
養護教諭さんは、ため息を吐いて口を開いた。

「遅かったたじゃないの、仁」