進くんの家の前の道をまっすぐ行くと丘が二つある。その二つの丘のうち、学校に近い方の丘の上の方に海斗くんの家がある。
えっちらおっちら丘の上まで登って、海斗くんの家の前へ着くと、ドアーチャイムを押す。

『……はい』

「日の出小中高一貫校中等部1ーC担任の朝倉です。海斗くんいますか?」

少しして玄関の扉が開き、中から女の人が顔を出す。

「どうぞ、中にいますから」

どうやら海斗くんは一人っ子らしい。ぼくは海斗くんのお母さんに案内され、ある部屋の前まで行く。

「あの、この部屋、鍵はついてますか?」

「いいえ。でも、入ろうとすると全力拒否するんです」

「成程。ありがとうございます」

海斗くんのお母さんはぺこりと頭を下げて何処かに行ってしまった。進くんは扉をじっと見つめ、そのまま座った。

「こんにちは、海斗くん」

「……誰、ですか」

中からくぐもった声が聞こえる。

「あ、ぼくは日の出中の1ーC担任、朝倉仁です。要するに海斗くんの担任ですね」

進くんも海斗くんに向かって話す。

「オレは仁藤進。テメェのクラスメイト」

進くんは鋭い目つきで扉を見つめていた。……いや、扉を見ていたのでは無く、扉の向こうにいる海斗くんを見つめていた。ちゃんと海斗くんに向き合おうとしているみたいだった。

「テメェ、なんで学校来ねぇンだよ」

「それは……」

海斗くんは、少しの間沈黙する。そして、小さな、小さな声で言った。


「……の……だから」


聞き間違いかと思った。ただ、違った。
海斗くんは、確かに、

「自分が、犯罪者の子だから」

と言っていた。

進くんが、目を見開く。進くんは再び海斗くんに問う。

「テメェ……それは、どういうことだ?」

「……どういうことも何もない。言葉の通りですが」

進くんがカッとなって立ち上がり、ドアノブに手を伸ばす。

「おい、テメ……」

ドアノブを動かせないみたいだった。進くんは諦めて手を離す。

「……僕の父さんは、違法な取り引きをして捕まっただけです」

違法な、取り引き?最近、それに似たようなことを聞いたような……。ぼくは、あることに気がつく。進くんが何故こうも急に荒れたのかも。

「海斗くん、お父さんの、取り引き相手は、わかりますか?」

扉の向こうで息を呑む音が聞こえる。しばらくして、震えた声が返ってきた。

「……仁藤」

その瞬間、進くんが怒鳴った。

「テメェの親父のせいか、オレの親父が刑務所送りになったのはァ!」

進くんは、自分の父親は悪人ではないと言っていた。ただ、誰かにハメられただけだ、と。だからだ。だから、怒ってる。取り引き相手がいなければ、捕まることもなかったから。
見たこともない相手だけど、感情が爆発しちゃったんだと思う。