「えっとですね、簡単に言えば学校に来てほしいってことを言おうと思ってですね」

「それは、できねェ」

ぼくは首をかしげる。なんで、できない?

「えっと、なんでですか?」

「金だよ」

ぼくは進くんの言葉に目をぱちくりさせる。こんな小さい子が家計のお金について考えているなんて。

「親父が逮捕された。お袋だけで金を稼がなきゃいけねェ。なのに子供は八人。食費だけで手いっぱいだ。
オレは休日はカフェを手伝ってるけど、平日は心配かけるから何もやってねェ。となると、オレは自分で稼げることもできねェ。オレは学校に行っただけで迷惑になるだけだ。小6の時にそういう答えを出した。
だから、オレはわざと謹慎になって学校に行かねぇようにしてンだ」

……なるほどね。でも、それはぼくが困るんだよなぁ。すると、陽眼が口を開いた。

「んー、最低なことかもしれんけど、おまいさんの父親はどういう経緯で刑務所にいれられたんじゃ?」

進くんはこちらを数秒睨むように見つめる。進くんは小さく口を開き、ポツリと喋りだした。

「親父は、プログラマーなんだよ。頭良いの。うらやましいわ。だけどなかなか儲けが出ねェ。
親父はこのままだと家計をやりくりできねぇからと言って新しい仕事探してたんだよ。そこで見つけたのが情報屋だ。
いろいろ見てたら高額の取引があったらしくてよ、それを受けたんだと。パソコンの扱いも慣れていたし、会話術もなかなかだったからな。ただ、その依頼が犯罪につながることだったらしくてよ」

自分の口から犯罪、という言葉が飛び出しても進くんは冷たい目のまま。

「親父に聞いたら、知らなかったんだと。犯罪につながることだったなんて知らなかったと。
ただ、家族の生活が少しでも良くなるように高額のものを選んだんだと。それ以外気にしていなくて逮捕されたとか。持ち前の頭の良さを発揮できなかったんだよ、親父は。
金があることより、家に親父がいるっていう安心感のほうが、弟たちにとっちゃ大事なんだよ。なのに逮捕されやがった。クソ親父だ。
なんで捕まったんだよって思った。実際に口にも出した。当たりめェだ。ただ、オレたちのことを一番に考えてくれた親父の気持ちも少しは考えてやるべきだったかもしれねェ」

進くんは、少し肩を落とし、下を向く。

「……お袋も、弟らも、すんげぇパニックになって、泣いてて。オレが理解してやんなきゃいけなかった。そうなんだよ。親父には、味方がいなくなっちまう。
……オレが、弟の面倒を見なきゃいけねェ。お袋は、今必死に仕事して金稼いでンだ。
オレは、多分親父に謝りに行かなきゃいけねェ。ただ、行こうとすると毎回思い出すんだよ、親父の情けねェ顔。だから、親父が捕まってから、一度も顔出しに行ってねェんだ。入口のところでいつも引き返しちまう」

進くんは少し頭を掻いて、寂しそうな目でつぶやく。

「どうにかなんねェもんかなあ……」
陽眼は首を少し傾けて言った。

「とりあえず、弟の面倒を見るって問題はすぐ解決するぞ」

「え?」「は?」

「まあ、ちょっと待ってろ」

陽眼は口元にガラケーを当て、ニコッと笑った。