外に出ると、風がさぁっと吹き付けてきた。

「陽眼……」

「なんじゃ?」

「海って……漁港って、どこ?」

陽眼が目をぱちくりさせてから眉を顰める。

「え……知らない……?」

「知らない……」

「マジか」

「うん」
ぼく、この街に住んで20年以上経ったけど、本当にわかんない。とりあえず陽眼に着いて行くことになった。と、もう一度風が吹いて、ほのかに潮の香りがした。

「陽眼、海、あっち?」

「そ。潮の匂いの方に向かって走れば良いんじゃ」

「おっけー」

ぼくは思い切り走り始める。目の前には家が立ちはだかる。住宅街だから仕方が無いが、邪魔だ。邪魔で仕方が無い。ぼくは、家をジャンプで通り越した。そうするのが一番早い。少しそうやって進んでいると、漁港についた。確かに、透さんが言っていたように整備されていない。こんなので法律に引っかかったりしないのだろうか。ただ、波が岩に当たる音が心地良いからこのままでも良いような気もする。……なんでもいいや、ぼく関係無いし。
ぐるっと周りを見渡すと、一際大きい岩の上に1人の男の子が座りながら海の向こうを眺めてるのが見えた。……進くんかな?中1にしては身長低いけど……。ぼくは岩のそばに近寄って男の子に声をかける。

「すみません、仁藤進くんであってますか?」

そう言うと、男の子はビクッと反応し、こちらを見下ろし、すごい顔で睨んできた。

「誰だお前」

「えっと、朝倉仁です。進くんのクラスの担任なんですけど……」

「証拠」

「証拠ですか?」

「そうだよ。信じられるわけがねぇだろ、それだけ言われても。証拠出せよ」

ぼくはズボンのポケットを探る。

「これ、名刺です」

男の子は近づく気がなかったみたいだから、名刺を投げてあげる。男の子は名刺をキャッチしてしばらく見つめ、岩から降りてきた。

「あれ、これだけで良いんですか?」

「名刺も見せてもらったし、何かする気なら岩に登ってくると思ったから。それとも、信用されたくなかったか?」

「いえ……」

「だったら問題ねェだろ。そうだよ、オレは仁藤進。……で、何の用?」

「家まで連れてってください。茜さんが心配してましたよ」

進くんは動揺したのか、少し目を振るわせる。

「お袋が……。……っどうせ今の時間は買い出し行ってて家にはいねーよ」

「いいじゃないですか。ぼく、進くんを探すの苦労したんですから」

「……わかったよ。着いてこい」

……先生にこういう口聞くから謹慎になったんだろうなー。ぼくは、小さい進くんの背中を見つめて進くんの家へ戻った。
進くんが鍵を開けて中に入る。確かに誰もいない。進くんは、玄関に置いてある写真に向かってぼそっと呟く。さっきも見たやつだ。

「……ただいま」

ぼくも真似してお邪魔します、と声をかける。進くんはそのまま先に入ってしまって、玄関に棒立ちの棒立ちのぼくたちに入ってくるように指示した。ぼくたちは進くんの後に続いて進くんの部屋に入る。陽眼含めた三人が入ると、進くんは扉を閉めて全員を座らせる。

「……ンで、なんでオレを探してたんだ?朝倉さんよォ」