「土日? いるよ。だいたい、いる」
「そうなんだ。よかった。部活に入ったら、平日はあまり来られなくなるから」
あっさりと期待する答えが返ってきて安心する反面、違う心配が清を支配した。
「もしかして、学校で友だちがいないとか、家に帰りづらいとか、そういうのあったりする?」
恐る恐る訪ねれば、サチはけらけらと笑った。
「あはは、大丈夫。そういう心配は絶対無いから」
「そっか」
せっかく出来た友人が何かで悩んでいたら大変だ。そう思ってのことだったが、どうやら杞憂だったらしい。
今日も二人で山の散策をした。来たばかりの清は楽しいことばかりだが、いつもいるサチはつまらなくないだろうか。清がサチの横顔を見つめる。
「どうしたの?」
「ううん」
今度はサチが見つめてきた。思わず顔をそらしてしまう。
「清君。お願いがあるんだけど」
「お願い?」
「スマホの使い方教えてくれない?」
「スマホ?」
聞くところによると、サチはスマートフォンを触ったこともないそうで、一度でいいから使ってみたいと瞳を輝かせて懇願された。
こちらも断る理由は無い。中学生でスマートフォンを持っていることが恵まれているのかは分からないが、引っ越す前の都会でも持っていない同級生は何人かいた。
「いいよ。まず何がいいかな。アプリ……音楽聴く? あとは写真とか。カメラは分かるか」
「カメラは知ってるけど、やったことない」
「そっか。じゃあ、興味あるの教えて。説明するよ」
まず写真の撮り方、データの確認の仕方を教えた。知識はあるが実際にやるのは初めてで、一枚撮るごとにサチは感動していた。
「すごい。スマホ使ってる人の見てただけだから、ずっとやってみたかったんだ」
そう言って、木の幹や、蟻の行列を撮っていた。自分では撮らない視点の写真データが思いがけず増え、清も見ていて面白くなってきた。
「次は何する? ゲームとか?」
「ゲームしたい!」
初心者でもすぐできるアプリを探し、パズルゲームをすることにした。
ゲームも初体験ということで、最初は慣れず難しいと言っていたが、すぐにコツを掴んで楽しんでいた。きっと、厳しい家なのだろう。サチに比べて自分は随分甘やかされている。
「ありがとう。楽しかった!」
「僕も楽しかった」
弾ける笑顔でスマートフォンを返される。これだけ喜んでくれるならいくらでも貸したくなる。その後は撮ったデータを加工したり、葉の裏にある虫を見つけたりして遊んだ。
十七時半を過ぎた頃、二人で麓まで下りる。清が振り向いて問いかけた。
「ねぇ、まだ明るいしさ、もう少し遊べない? この道を真っすぐ行ったところにコンビニもあるし」
「コンビニ」
「お金無いなら、お小遣い持ってきてるし、僕」
サチが道路の奥を覗き込む。もう少しで山を出るというところなのに、サチはその一歩を出してはくれない。サチが力無く首を振った。
「私はここから出られないから」
「それってどういう──」
聞き返そうとして、突風がそれを遮る。気付いた時にはサチは消えていた。
「サチ!?」
叫んでみるが、清の声が山に吸い込まれていくばかりで、一向にサチは姿を現さない。
一体何が起きたのだ。まだ陽は暮れていないというのに、山の空気が寒々としたものに変わった。清は踵を返し、一目散に自宅へと駆け戻った。
「たまるか! どうしたこと、清ちゃん」
ちょうど玄関先に祖母がいて、勢いよく開けたものだから驚かせてしまった。
「ごめん、ちょっと、急いでて。ただいま」
乱暴に靴を脱ぎ、祖母の顔を見て靴を揃え直す。
「おかえり。手ェ洗ってね」
「うん」
洗面所で手を洗ってうがいする。ようやく跳ねていた心臓が落ち着いてきた。顔色はまだ悪い。まだ、サチが言ったことが消化できない。
サチはどこに消えたのか。サチは何者か。まさか、山が見せた幻でもあるまい。
陽も暮れていないのに、ベッドに飛び込みそこにくるまる。
まだ動揺はしているが、怖くはなかった。それよりも、二度とサチに会えないのではないかという不安の方が大きい。
たまらず、部屋の窓を開ける。
「サチ」
当然、返事は無い。よろよろとベッドに舞い戻り、薄いタオルケットを頭まで覆った。
「ご飯だよ~」
一階から母の催促が聞こえる。そこで、制服のままだったことに気が付いた。宿題もやっていない。どんなに悩んだところで、毎日の業務は無くならない。諦めて、清はタオルケットから顔を覗かせた。
「そうなんだ。よかった。部活に入ったら、平日はあまり来られなくなるから」
あっさりと期待する答えが返ってきて安心する反面、違う心配が清を支配した。
「もしかして、学校で友だちがいないとか、家に帰りづらいとか、そういうのあったりする?」
恐る恐る訪ねれば、サチはけらけらと笑った。
「あはは、大丈夫。そういう心配は絶対無いから」
「そっか」
せっかく出来た友人が何かで悩んでいたら大変だ。そう思ってのことだったが、どうやら杞憂だったらしい。
今日も二人で山の散策をした。来たばかりの清は楽しいことばかりだが、いつもいるサチはつまらなくないだろうか。清がサチの横顔を見つめる。
「どうしたの?」
「ううん」
今度はサチが見つめてきた。思わず顔をそらしてしまう。
「清君。お願いがあるんだけど」
「お願い?」
「スマホの使い方教えてくれない?」
「スマホ?」
聞くところによると、サチはスマートフォンを触ったこともないそうで、一度でいいから使ってみたいと瞳を輝かせて懇願された。
こちらも断る理由は無い。中学生でスマートフォンを持っていることが恵まれているのかは分からないが、引っ越す前の都会でも持っていない同級生は何人かいた。
「いいよ。まず何がいいかな。アプリ……音楽聴く? あとは写真とか。カメラは分かるか」
「カメラは知ってるけど、やったことない」
「そっか。じゃあ、興味あるの教えて。説明するよ」
まず写真の撮り方、データの確認の仕方を教えた。知識はあるが実際にやるのは初めてで、一枚撮るごとにサチは感動していた。
「すごい。スマホ使ってる人の見てただけだから、ずっとやってみたかったんだ」
そう言って、木の幹や、蟻の行列を撮っていた。自分では撮らない視点の写真データが思いがけず増え、清も見ていて面白くなってきた。
「次は何する? ゲームとか?」
「ゲームしたい!」
初心者でもすぐできるアプリを探し、パズルゲームをすることにした。
ゲームも初体験ということで、最初は慣れず難しいと言っていたが、すぐにコツを掴んで楽しんでいた。きっと、厳しい家なのだろう。サチに比べて自分は随分甘やかされている。
「ありがとう。楽しかった!」
「僕も楽しかった」
弾ける笑顔でスマートフォンを返される。これだけ喜んでくれるならいくらでも貸したくなる。その後は撮ったデータを加工したり、葉の裏にある虫を見つけたりして遊んだ。
十七時半を過ぎた頃、二人で麓まで下りる。清が振り向いて問いかけた。
「ねぇ、まだ明るいしさ、もう少し遊べない? この道を真っすぐ行ったところにコンビニもあるし」
「コンビニ」
「お金無いなら、お小遣い持ってきてるし、僕」
サチが道路の奥を覗き込む。もう少しで山を出るというところなのに、サチはその一歩を出してはくれない。サチが力無く首を振った。
「私はここから出られないから」
「それってどういう──」
聞き返そうとして、突風がそれを遮る。気付いた時にはサチは消えていた。
「サチ!?」
叫んでみるが、清の声が山に吸い込まれていくばかりで、一向にサチは姿を現さない。
一体何が起きたのだ。まだ陽は暮れていないというのに、山の空気が寒々としたものに変わった。清は踵を返し、一目散に自宅へと駆け戻った。
「たまるか! どうしたこと、清ちゃん」
ちょうど玄関先に祖母がいて、勢いよく開けたものだから驚かせてしまった。
「ごめん、ちょっと、急いでて。ただいま」
乱暴に靴を脱ぎ、祖母の顔を見て靴を揃え直す。
「おかえり。手ェ洗ってね」
「うん」
洗面所で手を洗ってうがいする。ようやく跳ねていた心臓が落ち着いてきた。顔色はまだ悪い。まだ、サチが言ったことが消化できない。
サチはどこに消えたのか。サチは何者か。まさか、山が見せた幻でもあるまい。
陽も暮れていないのに、ベッドに飛び込みそこにくるまる。
まだ動揺はしているが、怖くはなかった。それよりも、二度とサチに会えないのではないかという不安の方が大きい。
たまらず、部屋の窓を開ける。
「サチ」
当然、返事は無い。よろよろとベッドに舞い戻り、薄いタオルケットを頭まで覆った。
「ご飯だよ~」
一階から母の催促が聞こえる。そこで、制服のままだったことに気が付いた。宿題もやっていない。どんなに悩んだところで、毎日の業務は無くならない。諦めて、清はタオルケットから顔を覗かせた。



