人気の無い山は総じて静かなものかもしれない。しかし、それにも限度がある。
ここは妙な空気が漂っている。まるで、自然自体が遠慮しているような。
やはり何かある。何かいる。
ここへ来て、信仰が薄れたために神がどこかへ行ったという仮説は消えた。この一点だけでも収穫だ。
いるのであれば、それ相応のおもてなしと対応をしなければならない。
途中、二手に道が分かれていた。右側は獣道のように草が生えていたが、人が通った跡があった。幅からして、昔は立派な山道の一つだったのかもしれない。祈祷師は右を選択した。
少し開けたところにこじんまりとした祠が現れた。これがサンジン様かと思ったが、何か力が宿っている気配は無い。
「本物は違うところか」
もしかしたらここが住処で、普段は別の場所にいるのかもしれない。
どうやら随分隠れ上手な神様らしい。すっかりオーラを消されてしまっている。
本来なら、神が歩いた形跡を残ったオーラで辿っていくことができるのだが、当てがすっかり外れてしまった。
仕方ない。じっくり回って、それらしい個所に目星を付けておこう。
草木の様子、山に住む生き物を観察していく。
葉が色づき始め、登山客を歓迎している。人がいない割に荒れているところがほとんどない。
「本当に、害をなす神がいるのか……?」
山の様子を見る限り、むしろ益を与えているように思える。今のところ、上原の言っていた地震も起きていない。
時間帯の問題だろうか。夜にならないと起こらない可能性はある。
「……あれか?」
鳥を見ようと見上げれば、木々の中で一本だけにょっきりと飛び出しているものがあった。だいぶ大きな木だ。祈祷師は木を目指して道を進んだ。
五分程で目的地に着いた。近くで見ると、より迫力がある。
近くにも木が生えているが、目の前の大木だけ明らかに樹齢が違う。大昔から人々を見つめてきたのだろう。
「失礼いたします」
大木に手を当てる。祈祷師が首を傾げた。
てっきりここだと思っていたが、神が中にいるような感じが手に伝わってこない。
見当違いだったか。仕方なく手を離す。
「有難う御座いました」
大木に頭を下げ、祈祷師は山の散策を続けた。
そろそろ陽が傾くというところで山を出た。
どれだけのものだろうと覚悟を決めてきたが、はっきり言って肩透かしだった。いや、不幸中の幸いと言うべきか。
これなら、何事も無く済みそうだ。
祈祷をして、場を清めるため、近くの家々を回って札を配る。受け取ってもらえないかもしれないが、いくつか受け取って貼ってもらえればある程度の効力を持つから問題無い。
「さて、帰ろう」
夜になって余所者がうろついては記憶に残ってしまう。早々退散するに限る。
バス停までの道を真っすぐ歩いていると、小走りで学生服の少年が近付いてきた。そのまま横を通り過ぎる。こちらにも気付いていない様子だ。
何を急いでいるのか。なんとなく振り向くと、山へ入るところだった。
──山で遊ぶのか。
珍しいと思った。
暇を持て余した年代であれば、ふとした時に軽い登山をしたくなるのも分かる。しかし、あの年代ならば同世代と騒ぎ合う方が楽しいのではないだろうか。祈祷師はすぐに考え直した。
──いやいや、過ごし方は人それぞれ。一人で遊ぶのが好きな少年がいたっていい。登山が趣味だっていい。
無意識のうちに自分の中の常識を押し付けようとしたことを申し訳なく思う。それだけ頭が固くなってしまった証拠だ。
先ほど散策した中で子どもが遊べそうなところはいくつか見受けられた。きっと彼なりに楽しんで帰るのだろう。
惜しむらくは、彼の遊び場所が近々一つ減ってしまうことだ。一週間程度を予定しているが、その間悲しむことを考えると心が痛む。
「おっと、間もなくバスが来るぞ」
祈祷師は気持ちを切り替え、帰宅の途に就いた。
ここは妙な空気が漂っている。まるで、自然自体が遠慮しているような。
やはり何かある。何かいる。
ここへ来て、信仰が薄れたために神がどこかへ行ったという仮説は消えた。この一点だけでも収穫だ。
いるのであれば、それ相応のおもてなしと対応をしなければならない。
途中、二手に道が分かれていた。右側は獣道のように草が生えていたが、人が通った跡があった。幅からして、昔は立派な山道の一つだったのかもしれない。祈祷師は右を選択した。
少し開けたところにこじんまりとした祠が現れた。これがサンジン様かと思ったが、何か力が宿っている気配は無い。
「本物は違うところか」
もしかしたらここが住処で、普段は別の場所にいるのかもしれない。
どうやら随分隠れ上手な神様らしい。すっかりオーラを消されてしまっている。
本来なら、神が歩いた形跡を残ったオーラで辿っていくことができるのだが、当てがすっかり外れてしまった。
仕方ない。じっくり回って、それらしい個所に目星を付けておこう。
草木の様子、山に住む生き物を観察していく。
葉が色づき始め、登山客を歓迎している。人がいない割に荒れているところがほとんどない。
「本当に、害をなす神がいるのか……?」
山の様子を見る限り、むしろ益を与えているように思える。今のところ、上原の言っていた地震も起きていない。
時間帯の問題だろうか。夜にならないと起こらない可能性はある。
「……あれか?」
鳥を見ようと見上げれば、木々の中で一本だけにょっきりと飛び出しているものがあった。だいぶ大きな木だ。祈祷師は木を目指して道を進んだ。
五分程で目的地に着いた。近くで見ると、より迫力がある。
近くにも木が生えているが、目の前の大木だけ明らかに樹齢が違う。大昔から人々を見つめてきたのだろう。
「失礼いたします」
大木に手を当てる。祈祷師が首を傾げた。
てっきりここだと思っていたが、神が中にいるような感じが手に伝わってこない。
見当違いだったか。仕方なく手を離す。
「有難う御座いました」
大木に頭を下げ、祈祷師は山の散策を続けた。
そろそろ陽が傾くというところで山を出た。
どれだけのものだろうと覚悟を決めてきたが、はっきり言って肩透かしだった。いや、不幸中の幸いと言うべきか。
これなら、何事も無く済みそうだ。
祈祷をして、場を清めるため、近くの家々を回って札を配る。受け取ってもらえないかもしれないが、いくつか受け取って貼ってもらえればある程度の効力を持つから問題無い。
「さて、帰ろう」
夜になって余所者がうろついては記憶に残ってしまう。早々退散するに限る。
バス停までの道を真っすぐ歩いていると、小走りで学生服の少年が近付いてきた。そのまま横を通り過ぎる。こちらにも気付いていない様子だ。
何を急いでいるのか。なんとなく振り向くと、山へ入るところだった。
──山で遊ぶのか。
珍しいと思った。
暇を持て余した年代であれば、ふとした時に軽い登山をしたくなるのも分かる。しかし、あの年代ならば同世代と騒ぎ合う方が楽しいのではないだろうか。祈祷師はすぐに考え直した。
──いやいや、過ごし方は人それぞれ。一人で遊ぶのが好きな少年がいたっていい。登山が趣味だっていい。
無意識のうちに自分の中の常識を押し付けようとしたことを申し訳なく思う。それだけ頭が固くなってしまった証拠だ。
先ほど散策した中で子どもが遊べそうなところはいくつか見受けられた。きっと彼なりに楽しんで帰るのだろう。
惜しむらくは、彼の遊び場所が近々一つ減ってしまうことだ。一週間程度を予定しているが、その間悲しむことを考えると心が痛む。
「おっと、間もなくバスが来るぞ」
祈祷師は気持ちを切り替え、帰宅の途に就いた。



