私たちは、明日の午後おばあさんたちと遊ぶ約束をしてから、早速、日記探しへの小さな冒険に出た。
改めて外に出てみると、吸う空気はいつもと変わらないこの土地の味がするのに、私たちの瞳に映る景色はいつもと比べ物にならないぐらいに異質なものであった。街から人が消えたのだ。いつもなら、浴衣を着たカップルがこの辺でイチャイチャしながら温泉饅頭を食べているのに、今日は誰もいない。時折見かけるのは、旅館の従業員らしき人ばかり。どこもかしこも「臨時休業」の看板が並んでいる。まるで時間が止まってしまったかのようだ。凍りついたかのように、すべてのものが静止している。
「誰もいないと、何か寂しいね。今、この道には雫と迅くんと私だけ。不思議」
「私たちだけしかいないと、確かに違う場所に来たんじゃないかって錯覚しちゃうね」
「僕が来た時には、確かここで抹茶アイスを食べたっけ……」
そんな寂しい通りを抜け、まず向かったのは、猫の夢にも出てきた神社だった。迅くんが以前来たことがあるというので、何か手がかりがないか探すことにした。お守り販売は他の場所と同じく営業していなかったが、神社に入ることはできた。この温泉街の歴史を見守り続けてくれたこの神社には頭も上がらない。鳥居の前でしっかりと神様に挨拶してから、足を踏み入れる。やっぱり神秘的な空気。少しでも油断すれば、どこかに連れていかれそうだ。
小さな神社であるため、鳥居をくぐると、すぐにお賽銭箱が見える。せっかく来たのだから、私たちはお参りをすることにした。それぞれが思い思いのお金を投げて、自分の願いを神様に向かって心の中で叫ぶ。願いを声に出すということはしないが、きっと迅くんは「日記が見つかりますように」、香澄は「素敵な出会いがありますように」とでも願っているのだろう。私の願いたいことは山ほどあるといえば大げさかもしれないけれど、いくつか存在する。そんな中、一番叶えたい願い事といえばこの1つだろうか。
――本当の自分を見つけられますように。
元々、自分の姿をよくわかっていなかった。昨日考え事をしてのぼせてしまったのはその結果だと思うし、夏休み前の授業中にはぼんやりとしていて、気づけば板書をしていない部分の黒板が消されていることも何度もあった。その悩みが、なぜか迅くんと出会ったことで悪い意味ではなけれど、余計に膨らみ、意識してしまうようになってしまったのだ。きっと迅くんが私に対して言ってくれた言葉や行動、この事態が何か私を変えようとしているのだろう。だから、私が迅くんと入れる残り数日は、ある意味で自分探しの旅になる。そう思っているのだ。
その中で私は悪事を働くかもしれないし、誰かを裏切るかもしれない。もしくは、自分を傷つけたり、誰かと向き合って対立するかもしれない。それは思いすぎだとしても、本当の私を見つけるため、神様には遠くからでもいいから見守っていてほしいと強く思う。
この願いを無駄になんかしない。
1、2分私たちは自分の願いを、どこか遠くにいるであろう神様に届けた。目をつぶっていた私にはどのような神様が映ったのだろう。
「よし、十分に願い終わったよ。ここまで願ったら、きっと神様は叶えてくれるよ。もちろん、何を願ったのかは秘密だけど。でも、叶った時には言ってもいいのかもね」
「僕も、願い終わったよ」
「……うん、私も、しっかり願ったよ」
神様の領域では、失礼のないように気を付けながら手がかりを探したけれど、特に日記につながるような手がかりを見つけることはできなかった。
「かつて、この神社は一部が焼失したが、兄弟で協力し修復に挑んだ」
「その兄弟は、修復が終了する前に亡くなってしまったため、今でもこの神社に住みついている。なお、そのあと他の人が修復を完成させた。その兄弟のことをよく知っている人物だったらしい」
「……幽霊が出るみたいな話だね。昼間でよかった」
「そしたら、迅くんがいるし、任せちゃおう!」
「いや、僕も怖いの苦手だから!」
「えー、しょうがないな。そのときは私が! 迅の代わりにね」
手がかりに関して、しいて言うのであれば、この神社の歴史が書かれている看板を初めて読み、理解するのが難しい都市伝説が存在することを知ったことだろうか。
次に向かったのは、神社のすぐ隣にある小さな洞窟だった。私が初めてこの神社を見つけたのは、買い物の帰りに急に大粒の雨が降り出した際に、偶然見つけて雨宿りをした時だった。数年ぶりに入る洞窟は、外の暴力的な暑さとは違い、まるで異世界のように涼しい。特別な力が宿っているかのようだ。ただ、入り口が狭く、私は頭をぶつけてしまった
さっきは場所的にも2人をくっつけることはできなかったけれど、ここでは何か仕掛けよう。
「この中で、1人で秘密基地ごっこをしたっけな」
「へー、あ、私も友達とかくれんぼで使ったかも。雫も来たことある?」
「うん、あるよ。ほら、小さい頃に一緒に遊んだじゃん」
「そうだったね。雫とここで遊んだね」
「……あ、まだ残ってるんだ。おそらくこれは、僕が小学生の時に積んだ石かも」
迅くんが指さす先には、3段に積まれた石があった。時がたったことを示すかのように苔が生えており、それもただの生え方ではない。ここで生きていくことを示したかのように、全体を覆っていた。この洞窟に入る人もほとんどいないことを考えると、迅くんが数年前に遊んだ石がそのまま積まれた状態で残っていてもおかしくはないのかもしれない。一方でここにはめんこなども隠していたそうだが、それは探してもなさそうだった。むろん、それよりも大きな日記帳はなかった。
ここで私は仕掛けようとして、わざと――でも本当らしく最新の注意を払いながら軽くこけてみた。すぐ前には香澄もいたので、ドミノ倒しのように香澄は体勢を崩す。そして、そのドミノは迅くんにも伝わる。迅くんは香澄を支えるように抱きしめたような感じになる。
「あ、香澄――」
「迅――」
抱きしめる形にはなった。ただ、もっと大胆に抱きしめてもらえるような――たとえば、床ドンのようなことを想像していたけれど、思っていたのとは違う形になった。とはいえ、この狭い空間で、抱きしめるような体勢になる――流石にこれには2人もドキドキだろうと思い、2人の顔を見てみるも、想像とは少し違った。
「ああ、ほんとごめん! 2人とも、大丈夫だった?」
とはいえ、本当らしく振舞わなければいけないため、とにかく私は謝罪の言葉を口にする。ただ、2人はドキドキしている表情というよりは、まるで家族のように特に怪我が無くてよかったねというような安心感を抱いているような感じだった。
「もー、雫はドジだな。旅館の娘よ、しっかりしてよ。迅も大丈夫?」
「うん、大丈夫。香澄も大丈夫? もう、気を付けてね」
「はい、以後気を付けます」
この作戦は失敗か。というか、細心の注意を払ったとはいえ危険を伴うものではあったため、2人をくっつけようと先走って、この行動に出てしまったことを軽く後悔する。ただ、なんで2人は、ドキドキを見せなかったのだろう。
改めて外に出てみると、吸う空気はいつもと変わらないこの土地の味がするのに、私たちの瞳に映る景色はいつもと比べ物にならないぐらいに異質なものであった。街から人が消えたのだ。いつもなら、浴衣を着たカップルがこの辺でイチャイチャしながら温泉饅頭を食べているのに、今日は誰もいない。時折見かけるのは、旅館の従業員らしき人ばかり。どこもかしこも「臨時休業」の看板が並んでいる。まるで時間が止まってしまったかのようだ。凍りついたかのように、すべてのものが静止している。
「誰もいないと、何か寂しいね。今、この道には雫と迅くんと私だけ。不思議」
「私たちだけしかいないと、確かに違う場所に来たんじゃないかって錯覚しちゃうね」
「僕が来た時には、確かここで抹茶アイスを食べたっけ……」
そんな寂しい通りを抜け、まず向かったのは、猫の夢にも出てきた神社だった。迅くんが以前来たことがあるというので、何か手がかりがないか探すことにした。お守り販売は他の場所と同じく営業していなかったが、神社に入ることはできた。この温泉街の歴史を見守り続けてくれたこの神社には頭も上がらない。鳥居の前でしっかりと神様に挨拶してから、足を踏み入れる。やっぱり神秘的な空気。少しでも油断すれば、どこかに連れていかれそうだ。
小さな神社であるため、鳥居をくぐると、すぐにお賽銭箱が見える。せっかく来たのだから、私たちはお参りをすることにした。それぞれが思い思いのお金を投げて、自分の願いを神様に向かって心の中で叫ぶ。願いを声に出すということはしないが、きっと迅くんは「日記が見つかりますように」、香澄は「素敵な出会いがありますように」とでも願っているのだろう。私の願いたいことは山ほどあるといえば大げさかもしれないけれど、いくつか存在する。そんな中、一番叶えたい願い事といえばこの1つだろうか。
――本当の自分を見つけられますように。
元々、自分の姿をよくわかっていなかった。昨日考え事をしてのぼせてしまったのはその結果だと思うし、夏休み前の授業中にはぼんやりとしていて、気づけば板書をしていない部分の黒板が消されていることも何度もあった。その悩みが、なぜか迅くんと出会ったことで悪い意味ではなけれど、余計に膨らみ、意識してしまうようになってしまったのだ。きっと迅くんが私に対して言ってくれた言葉や行動、この事態が何か私を変えようとしているのだろう。だから、私が迅くんと入れる残り数日は、ある意味で自分探しの旅になる。そう思っているのだ。
その中で私は悪事を働くかもしれないし、誰かを裏切るかもしれない。もしくは、自分を傷つけたり、誰かと向き合って対立するかもしれない。それは思いすぎだとしても、本当の私を見つけるため、神様には遠くからでもいいから見守っていてほしいと強く思う。
この願いを無駄になんかしない。
1、2分私たちは自分の願いを、どこか遠くにいるであろう神様に届けた。目をつぶっていた私にはどのような神様が映ったのだろう。
「よし、十分に願い終わったよ。ここまで願ったら、きっと神様は叶えてくれるよ。もちろん、何を願ったのかは秘密だけど。でも、叶った時には言ってもいいのかもね」
「僕も、願い終わったよ」
「……うん、私も、しっかり願ったよ」
神様の領域では、失礼のないように気を付けながら手がかりを探したけれど、特に日記につながるような手がかりを見つけることはできなかった。
「かつて、この神社は一部が焼失したが、兄弟で協力し修復に挑んだ」
「その兄弟は、修復が終了する前に亡くなってしまったため、今でもこの神社に住みついている。なお、そのあと他の人が修復を完成させた。その兄弟のことをよく知っている人物だったらしい」
「……幽霊が出るみたいな話だね。昼間でよかった」
「そしたら、迅くんがいるし、任せちゃおう!」
「いや、僕も怖いの苦手だから!」
「えー、しょうがないな。そのときは私が! 迅の代わりにね」
手がかりに関して、しいて言うのであれば、この神社の歴史が書かれている看板を初めて読み、理解するのが難しい都市伝説が存在することを知ったことだろうか。
次に向かったのは、神社のすぐ隣にある小さな洞窟だった。私が初めてこの神社を見つけたのは、買い物の帰りに急に大粒の雨が降り出した際に、偶然見つけて雨宿りをした時だった。数年ぶりに入る洞窟は、外の暴力的な暑さとは違い、まるで異世界のように涼しい。特別な力が宿っているかのようだ。ただ、入り口が狭く、私は頭をぶつけてしまった
さっきは場所的にも2人をくっつけることはできなかったけれど、ここでは何か仕掛けよう。
「この中で、1人で秘密基地ごっこをしたっけな」
「へー、あ、私も友達とかくれんぼで使ったかも。雫も来たことある?」
「うん、あるよ。ほら、小さい頃に一緒に遊んだじゃん」
「そうだったね。雫とここで遊んだね」
「……あ、まだ残ってるんだ。おそらくこれは、僕が小学生の時に積んだ石かも」
迅くんが指さす先には、3段に積まれた石があった。時がたったことを示すかのように苔が生えており、それもただの生え方ではない。ここで生きていくことを示したかのように、全体を覆っていた。この洞窟に入る人もほとんどいないことを考えると、迅くんが数年前に遊んだ石がそのまま積まれた状態で残っていてもおかしくはないのかもしれない。一方でここにはめんこなども隠していたそうだが、それは探してもなさそうだった。むろん、それよりも大きな日記帳はなかった。
ここで私は仕掛けようとして、わざと――でも本当らしく最新の注意を払いながら軽くこけてみた。すぐ前には香澄もいたので、ドミノ倒しのように香澄は体勢を崩す。そして、そのドミノは迅くんにも伝わる。迅くんは香澄を支えるように抱きしめたような感じになる。
「あ、香澄――」
「迅――」
抱きしめる形にはなった。ただ、もっと大胆に抱きしめてもらえるような――たとえば、床ドンのようなことを想像していたけれど、思っていたのとは違う形になった。とはいえ、この狭い空間で、抱きしめるような体勢になる――流石にこれには2人もドキドキだろうと思い、2人の顔を見てみるも、想像とは少し違った。
「ああ、ほんとごめん! 2人とも、大丈夫だった?」
とはいえ、本当らしく振舞わなければいけないため、とにかく私は謝罪の言葉を口にする。ただ、2人はドキドキしている表情というよりは、まるで家族のように特に怪我が無くてよかったねというような安心感を抱いているような感じだった。
「もー、雫はドジだな。旅館の娘よ、しっかりしてよ。迅も大丈夫?」
「うん、大丈夫。香澄も大丈夫? もう、気を付けてね」
「はい、以後気を付けます」
この作戦は失敗か。というか、細心の注意を払ったとはいえ危険を伴うものではあったため、2人をくっつけようと先走って、この行動に出てしまったことを軽く後悔する。ただ、なんで2人は、ドキドキを見せなかったのだろう。



