湯けむりの7日間

 
 香澄も朝の準備が整い、私と香澄の今日のスケジュールを教えてもらった。お母さんからの優しさだろうか、私たちの休み時間は2人同じようになっていて、間接的に3人で仲良くなりなさいよと言っているかのようだった。この時間は、迅くんの日記を探しに行く小さな冒険の時間になりそうだ。私はその時間が2人を恋人へと導く1つ目のチャンスだと思って、失敗する覚悟の上で2人を手助けするつもりだ。

 見つかるはずのない日記を探すのに、なぜだかプールに行く前のようなワクワク感――いや、2人を恋人へと導かせるドキドキ感?   ――を感じながら、まずはお客様に朝食をお届けする。橋の崩落から一夜明けた中、お客様の中には、橋の付近まで出向いた方もいたようで、昨日は暗いからよく見えなかった橋の姿の全貌も、今朝には明らかにされていた。もう、役立たないように折れ曲がった橋の近くには仮の橋を通そうと、重機などがいくつも並んでいる。地元新聞によると、今のところけが人はいないらしく、インフラもおおむね平常通りらしい。ただ、残念ながら私たちの住まいの方では今も電気はつかないようだ。

 先生の部屋ではニュースが流れており、原宿などのおしゃれな街でデートするかのような爽やかな服を着た天気予報士のお姉さんが、

『本日は昨日よりも異常に気温が上がり、今季一番の暑さになるかもしれません。しかし、明後日は雨が降りやすい天気になり、雷雨の可能性があるでしょう』
 
 と報道していた。雷雨となると復旧までに要する時間も長くなる可能性も否定できない。

 最後に朝食を届けたのは老夫婦のもとだった。私はこの老夫婦のお客様が他のお客様よりも遅く起きることを知っていたため、一番最後に運ぶことにしたのだ。

「失礼します。朝食、お持ちいたしました。状況も状況でして、このような食事とはなってしまいますが、どうぞお召し上がりくださいませ」

「雫ちゃん、香澄ちゃんありがとう。あと、もう一人の子は、どうしたの?」

 いつもの2人の中に、1人見かけない男の子がいることに気づいたおばあさんはそう質問する。
 
「あ、申し遅れました。迅と申します。私もこの旅館に泊まっているのですが、お二人と友人になったので、どうせならということで、一週間ほど手伝わせてもらっています」

 おばあさんとおじいさんに丁寧にあいさつをする。その丁寧さに一瞬で心を奪われたのだろうか、老夫婦はにっこりとした笑顔を垣間見せる。

「そうなの。やっぱり若いって素敵だね。3人が輝いて見えるよ。この旅館から見える夜空の星ように」

「そうだな。おりゃも若いころが一番楽しかった。もちろん、様々な感情が混じる頃でもあったがな」

「ありがとうございます。そういえば、昨日は寝られましたか?」

「ん……少し不安だったけれど、この旅館が守ってくれると思うと、ちゃんと寝られたみたいだよ」

「そうだな。おりゃも、今さら何を心配しても仕方ないし、普段通り眠れたよ。もう少し長居することになりそうだが、よろしくね。でも、こんなじじいには、手持ち無沙汰になりそうでな」

「そうですね。この辺りのお店は軒並み休業していると聞きましたし……」

 私たちには仕事があるが、確かにお客様にはこの孤立した中1週間過ごすというのは手持ち無沙汰になるお客様も出てくるかもしれない。温泉街を観光できたら少しはいいのかもしれないが、この状況である以上、軒並みシャッターは閉められているし、大きな自然の観光スポットというものも皆無に等しい。老夫婦のお客様にその中でできることはテレビを見たり、寝転がったりするぐらい。スマホというものも持っていなさそうだから、何か考えなくてはならない。

「あ、では、明日、よければ僕たちとトランプでもしませんか?」

 私よりもいくらか頭の回転が速い迅がそのような案を提案する。 

「ええっ、いいのかい?」

「3人がいいのなら。花札とかもやりたいね」

「時間はたっぷりありますので。2人ともいい?」

 香澄は私たちに確認を取るが、私たち2人はうんと言って了承する。私のおじいちゃんとおばあちゃんは旅館で一緒に働いているので、いつも顔を合わせるが、仕事が忙しくほとんど遊ぶことはない。なので、私たちにとってもそいうい時間を取れるのであれば歓迎だ。

 私たちは、明日の午後遊ぶ約束をしてから、早速、日記探しへの小さな冒険に出た。