私は今日、2つの「決戦」を終えて大きく成長したような気がした。
今日の残りの時間は、私だけの特別なものになった。お母さんが女将として働く姿を改めて見つめたり、迅くんと2人きりでゆっくりと会話をしたり。「決戦」を制したからこそ得られた時間を、私は何よりも大切にした。
そして、今日が、3人で迎える最後の夜だ。この夜が終われば、3人でこのように過ごす夜が次いつになるのかなんてわからない。
また、夏の大三角形が見えるちょうど1年後になるのかもしれない。
もう一つ、忘れていた最終「決戦」がある。インタビューゲームだ。
「今日のインタビューゲームは最後だから、特別ルールね。1人1つ、誰かに質問していいことにしよう!」
「おお、それいいね!」
「よし、わかった」
最後のインタビューゲームは香澄の意見により、特別ルールとなった。2人に聞きたいことは山ほどあるけれど、やはり私は恋人になったばかりの迅くんに質問したい。じゃんけんの結果、香澄、迅くん、私の順になった。
「じゃあ、まずは私か。私が質問したいのは……雫!」
香澄が私に質問してくることは、なんとなく分かっていたので驚きはない。
「質問は……、迅くんと2人でしたいことを3つ挙げてください!」
ただ、質問の内容は想定外のものだ。私たちが付き合ってると知った香澄は、今度は私たちがさらに深い糸で結びつくよう攻めてくるかもしれないから要注意だ。
「えっー、もう意地悪だな。まずは、手をつないでみたいかな。あとは、一緒にシュークリーム食べたい。そして、香澄と同じぐらいお互いのことをもっと知りたい」
「よーし、暗記した! 僕は雫とそういうことをすればいいのね。じゃあ、僕もそんな雫に質問。シュークリーム、どうして好きなの?」
「あー、確かに。雫って、シュークリーム好きだよね。私のもよく食べられちゃうんだから! 困った若女将さんだよ」
「言われてみれば、いつの間にか好きになったかも。ただ、思い浮かぶ理由は2つあるかな。1つは、小さい頃、私ができない仕事を投げ出したのが原因でお母さんと喧嘩した時に、お母さんが仲直りとして買ってくれたからかな。もう1つは、小学生くらいの頃にお客さんからもらったシュークリームがすごく美味しかったから。思い出せるのは、そんな理由かな……」
シュークリームを好きになった理由をちゃんと覚えているわけではないが、思い出せるものはそれぐらいだろうか。ただ、好きな食べ物を好きになった理由ってみんな覚えていないのが普通。大切な思い出あるほうがきっと、珍しい。
「へー、そういう理由があったんだ。女将の娘だから普段は和食とか多いけど、シュークリームだけは別だもんね」
「そうだね。最後は私が質問するのか。私は、迅くんに質問。私がもし、今後我慢してしまった時や、嘘をついてしまった時、どする?」
「そんなこと聞くなんて、雫らしくないな。……ほら、僕ならこうするよ」
こうする――その正体は、ハグだった。香澄がいるのにもかかわらず、迅くんは私の体を引き寄せ、強く抱きしめた。そして、私の瞳に映ったのは、迅くんの唇だ。まさか、これは――。でも、まだ心の準備ができていない。そんな無防備な姿のままの私。彼の熱に、私の体が溶けてしまいそうだ。ファーストキスをするなら、もっとちゃんと……。
「嘘だよ。まだ早いよ。でも、したい時、いつでもしてあげるから、その時が来るまで待ってて! だけど、僕の気持ちは、ちゃんと伝わったかな」
なんだ、フリだけか。私の今の気持ちは、半分は安心、そしてもう半分は残念。でも、その時が来るのはそう遠くなく、もう目の前に来ているのではないかと思ってしまう。
「もう、迅くんったら。じゃあ、今日はもう疲れちゃったから、寝るね。2人とも、おやすみ」
私は、拗ねた少女を演じて布団にもぐりこんだ。でも、彼の気持ちは、ちゃんと伝わっていた。
「うん、おやすみ」
「雫、おやすみ」
2人の「おやすみ」を聞いて、2つの「決戦」を終えた私の頭は、休むよう命令されたかのように、あっという間に夢の中へと入っていった。
私は、この夏の思い出を、一生、忘れることができない。



