私は、第二の「決戦」に向けて栄養補給をする。
大好きなシュークリームをほおばる。手に取ったシュークリームはどうやら当たりのようで、いつもよりクリームが多く入っているようだ。甘さが体に染みわたり、失いかけていた勇気が補充されていく。
第二の「決戦」が近づく。
第一の「決戦」が無事に終了したためか、先ほどよりは心が軽いように感じた。ただ、今度の決戦は、恥ずかしさの度合いでいえば、第一の「決戦」を大きく上回りそうだ。
「よし、行こう」
時計を確認して、立ち上がる。
さっきは香澄に見られてしまったけれど、今度ばかりはさすがに親友といえど見せられない。なので「二人にしてほしい」とお願いしてある。
雰囲気がガラリと変わる。レモンのように甘酸っぱい、高校生の青春に。
迅くんとの約束場所は、昨日、日記を見つけた場所でもある中庭だ。昨日と変わらず赤いバラが、夏の暑さにも負けないように咲き誇っていた。迅くんはすでに腰かけて座っており、私もその隣に座わる。迅くんの手には日記帳が握られていた。
告白なんて初めてだ。どうすればいいのかもわからない。だが、決めたことはひとつ。嘘も、我慢もせず、この気持ちをすべてぶつける。
ただ、恥ずかしさで胸が張り裂けそうだ。「さようなら」と心で呟き、覚悟を決めると、私はまずは告白ではない話から始めた。
「まずは、ありがとう。昨日、我慢するなとか、嘘をつくなとか言ってくれたおかげで、言いたいことをお母さんに伝えることができた。それに『女将さん』じゃなく『お母さん』と言うことができたよ」
「そうか。それはよかった。こんな僕でも、雫の役に立つことができるなんて」
「あとね、これは本題じゃないんだけど、昨日、迅くんはさ、触れると人の感情が分かるって言ってたじゃん? 実は私も、寝ている人の顔を見ると、その人の夢を見ることができるんだ」
「……普通の人なら信じないだろうけど、面白い能力を持ってる僕は信じちゃうな。というか、薄々気づいてたんだ。雫も何か能力を持ってるんじゃないかって」
「そうなんだ。お互い大変だね」
なぜか、ぎこちない会話が続く。まだ好きの「す」の字も出ていないのに、私の緊張は彼に筒抜けだろう。触れなくとも、迅くんにはすべてお見通しに違いない。
「とりあえず、ここからが本題」
「僕の中では、雫が言おうとしていることが5つくらいに絞られてるけど、すごく緊張してるね。安心して。最後までちゃんと聞くから。だって、大切な人の話なんだもん」
迅くんが、告白を5つの選択肢に入れているかはわからない。でも、どこか母との「決戦」と似た空気を感じる。この調子なら大丈夫。ただ、今回は結論を後回しにすると、すでに決めていた。
「最初はね、迅くんのこと、はっきりものを言うところとか、私と性格が全然違うから、仲良くなろうとは思ってなかった。でも、この6日間で、迅くんの人を思う気持ちに、私は、惹かれたんだ。はっきりものを言うことの大切さにも気づいたから、お母さんとも向き合えた」
「なんだか、恥ずかしいな」
まだ、彼は告白だと気づいていないようだ。ただの、感謝と憧れだとしか思っていないみたいだ。彼はわかりやすく、照れていた。でも、それだけじゃない。
「ただ、迅くんには、香澄と一緒にいたいっていう気持ちがあるのは分かってる。だから、返事は今はいりません。でも、この思いを、伝えさせてください。私の青春を、ほんの一瞬だけでも、味合わせてください」
あと、一息。もう、終わる。
「――迅くん、好きです」
私の中で一区切りをつけられた。
「――えっ」
好きという思いはちゃんと伝える。でも、大切な親友の恋心を奪ってまで、今すぐに返事を求めることはしたくない。これは我慢でも嘘でもなく本心だ。私が求めているのは、こういうことなのだ。選択は、迅くんに任せる。私を求めていないのであれば、私はちゃんとこの恋を諦めて終わらせる。そして、2人を応援する。
「迅くん、一瞬だけでも、青春を味合わせてくれてありがとう。レモンよりも酸っぱい青春は、夏のアイスみたいにすぐ溶けてしまうね。でも、辛いものもあるんだね……知ってるからこそ。お幸せに」
私はまだまだ弱虫なんだなと、この涙が証明している。やっぱり、ここでも私は泣いてしまうんだな。嘘なんて、ついてないのにこみあげてくるものがあるんだろう。諦めきれないとか、諦めたくないとかそうは思ってないけど、やっぱり……。
ありがとう、迅くん。好き、だったよ――いや、いつまでもきっと、好きなんだよ。
「えっ!? どうして泣いてるの? 何か勘違いしてない!? 選択肢の1つではあったけど、まさか本当にそれとは……。ごめん、頭が混乱していて」
ずるい。きっとこの涙の理由を知っているはずなのに。でも、迅くんの顔はもしかしたら、本当に私の涙の意味をしらないのかもしれない。でも、そうして――。
「返事いらないって言われたけど、聞かなくてもいいからさ、返させてくれない?」
「わかってるからいいのに。迅くんはさ……」
涙は少し止まったのに、ちゃんと現実を知ったらまた泣いてしまいそうだ。でも、私には、迅くんが答えるといっているのに、それを止める権利なんかないと気づき、何も言えなくなった。
「よかったら付き合ってくれない? 僕もさ、この6日間で気づけば雫に惹かれたんだ」
「……えっ? いや、うん。もちろん、私でよければ……」
その言葉を一言一言読む説くまでに、少し、時間がかかった。
私の頭は、かつてないほどに混乱している。
まず、第一に返事があったこと。そして、第二に「付き合って」と言われ私の恋が実ってしまったからだ。
私から告白したのだから、断る理由はないので付き合うことを了承してしまったけれど、香澄とはどうなるのだろうか。まさか、迅が二股するような人には見えないし。
「で、雫、勘違いしてない? 僕と香澄が両想いだって思ってる? それはないよ。お互いにそういう感情はまったくない。仲がいいのは多分、同じ血縁関係だからみたい。僕も昨日知ったんだけど」
「えっ? 同じ血縁関係?」
頭が、パンクしそうだった。二つの「決戦」が終わり、ようやく安堵したのも束の間、次々と理解不能な情報が追加される。迅くんが香澄と仲が良いのは同じ血縁関係だから? だけど、同じ年齢で、兄弟姉妹ではないだろう。一体どういうこと……。
「ああ、これは香澄に話してもらった方がいいかな。とはいえ、かなり複雑だったから、ざっくりとになると思うけど。今から香澄を呼ぶね」
「ああ、うん」
迅くんが電話で香澄を呼び出すと、香澄はすぐにこの部屋に来てくれた。迅くんが、私が「二人は両想いだと思っていた」という話をすると、香澄は「そんなのありえない」とばかりに噴き出した。私は真剣に考えていたからこそ、おもりが外れたような気がした。
「迅くんはいいやつだけど、なんか、恋愛感情はまったく芽生えなくて、家族愛に近いものしか感じなかったんだよね。それから日記帳見たら、どうやら私たち、甥と叔母の関係らしい」
16歳同士で、甥と叔母。本当にそんなことがあり得るのかと思ったけれど、彼の日記帳の家系図には、確かに二人の名前が書かれており、甥が迅くん、叔母が香澄と記されていた。
補足された紙から分かった情報を、香澄が簡単に教えてくれる。香澄には本人も記憶にないらしいが、かなり年の離れた兄がいたそうだ。その兄はいわゆる「不良」で、成人する前に交際相手を妊娠させてしまい、自らの家族と縁を切ったようだ。その後、兄はすぐに交通事故で亡くなり、兄の先輩が父親代わりとなって世話をした。しかし、その母親も突然逃亡してしまい、兄の先輩が、残された子を養子縁組として正式に引き取ったそうだ。その子どもが迅くんだという。
私の混乱した頭では、すべてを追いきれなかった。ただ、二人は甥と叔母の関係で、間違いはないということだけ、分かればよかった。でも、確かに考えてみれば、2人の行動や言葉は「恋」よりも「愛」に近いものだったのかもしれない。
「まあ、仮に私たちが両想いでも、3親等以内だから結婚できないしね。ていうか、まさか雫って、今さっき、迅くんに告白したの?」
「……うん、そうです」
「あはは、そうなの!私は、2人、すごくお似合いだと思うよ。で、迅くんはなんて返したの?」
「いいよって」
「これで晴れて2人は恋人同士だね。そんな2人に朗報! 明日、この温泉街で小さなお祭りがあるでしょ? 規模は去年より小さくなりそうだけど、花火も上がるって。記念すべき初デートだね。もちろん、私も2人についていくけど」
一体、どこで私は、2人が両想いだという勘違いをしてしまったのだろう。
恥ずかしさで胸が熱くなる。だけど――そんな私を受け止めてくれる人がいる。好きでいてくれる人がいる。
だからもう、間違いなんて怖くない。
私の青春は、一瞬なんかじゃなかった。
大好きなシュークリームをほおばる。手に取ったシュークリームはどうやら当たりのようで、いつもよりクリームが多く入っているようだ。甘さが体に染みわたり、失いかけていた勇気が補充されていく。
第二の「決戦」が近づく。
第一の「決戦」が無事に終了したためか、先ほどよりは心が軽いように感じた。ただ、今度の決戦は、恥ずかしさの度合いでいえば、第一の「決戦」を大きく上回りそうだ。
「よし、行こう」
時計を確認して、立ち上がる。
さっきは香澄に見られてしまったけれど、今度ばかりはさすがに親友といえど見せられない。なので「二人にしてほしい」とお願いしてある。
雰囲気がガラリと変わる。レモンのように甘酸っぱい、高校生の青春に。
迅くんとの約束場所は、昨日、日記を見つけた場所でもある中庭だ。昨日と変わらず赤いバラが、夏の暑さにも負けないように咲き誇っていた。迅くんはすでに腰かけて座っており、私もその隣に座わる。迅くんの手には日記帳が握られていた。
告白なんて初めてだ。どうすればいいのかもわからない。だが、決めたことはひとつ。嘘も、我慢もせず、この気持ちをすべてぶつける。
ただ、恥ずかしさで胸が張り裂けそうだ。「さようなら」と心で呟き、覚悟を決めると、私はまずは告白ではない話から始めた。
「まずは、ありがとう。昨日、我慢するなとか、嘘をつくなとか言ってくれたおかげで、言いたいことをお母さんに伝えることができた。それに『女将さん』じゃなく『お母さん』と言うことができたよ」
「そうか。それはよかった。こんな僕でも、雫の役に立つことができるなんて」
「あとね、これは本題じゃないんだけど、昨日、迅くんはさ、触れると人の感情が分かるって言ってたじゃん? 実は私も、寝ている人の顔を見ると、その人の夢を見ることができるんだ」
「……普通の人なら信じないだろうけど、面白い能力を持ってる僕は信じちゃうな。というか、薄々気づいてたんだ。雫も何か能力を持ってるんじゃないかって」
「そうなんだ。お互い大変だね」
なぜか、ぎこちない会話が続く。まだ好きの「す」の字も出ていないのに、私の緊張は彼に筒抜けだろう。触れなくとも、迅くんにはすべてお見通しに違いない。
「とりあえず、ここからが本題」
「僕の中では、雫が言おうとしていることが5つくらいに絞られてるけど、すごく緊張してるね。安心して。最後までちゃんと聞くから。だって、大切な人の話なんだもん」
迅くんが、告白を5つの選択肢に入れているかはわからない。でも、どこか母との「決戦」と似た空気を感じる。この調子なら大丈夫。ただ、今回は結論を後回しにすると、すでに決めていた。
「最初はね、迅くんのこと、はっきりものを言うところとか、私と性格が全然違うから、仲良くなろうとは思ってなかった。でも、この6日間で、迅くんの人を思う気持ちに、私は、惹かれたんだ。はっきりものを言うことの大切さにも気づいたから、お母さんとも向き合えた」
「なんだか、恥ずかしいな」
まだ、彼は告白だと気づいていないようだ。ただの、感謝と憧れだとしか思っていないみたいだ。彼はわかりやすく、照れていた。でも、それだけじゃない。
「ただ、迅くんには、香澄と一緒にいたいっていう気持ちがあるのは分かってる。だから、返事は今はいりません。でも、この思いを、伝えさせてください。私の青春を、ほんの一瞬だけでも、味合わせてください」
あと、一息。もう、終わる。
「――迅くん、好きです」
私の中で一区切りをつけられた。
「――えっ」
好きという思いはちゃんと伝える。でも、大切な親友の恋心を奪ってまで、今すぐに返事を求めることはしたくない。これは我慢でも嘘でもなく本心だ。私が求めているのは、こういうことなのだ。選択は、迅くんに任せる。私を求めていないのであれば、私はちゃんとこの恋を諦めて終わらせる。そして、2人を応援する。
「迅くん、一瞬だけでも、青春を味合わせてくれてありがとう。レモンよりも酸っぱい青春は、夏のアイスみたいにすぐ溶けてしまうね。でも、辛いものもあるんだね……知ってるからこそ。お幸せに」
私はまだまだ弱虫なんだなと、この涙が証明している。やっぱり、ここでも私は泣いてしまうんだな。嘘なんて、ついてないのにこみあげてくるものがあるんだろう。諦めきれないとか、諦めたくないとかそうは思ってないけど、やっぱり……。
ありがとう、迅くん。好き、だったよ――いや、いつまでもきっと、好きなんだよ。
「えっ!? どうして泣いてるの? 何か勘違いしてない!? 選択肢の1つではあったけど、まさか本当にそれとは……。ごめん、頭が混乱していて」
ずるい。きっとこの涙の理由を知っているはずなのに。でも、迅くんの顔はもしかしたら、本当に私の涙の意味をしらないのかもしれない。でも、そうして――。
「返事いらないって言われたけど、聞かなくてもいいからさ、返させてくれない?」
「わかってるからいいのに。迅くんはさ……」
涙は少し止まったのに、ちゃんと現実を知ったらまた泣いてしまいそうだ。でも、私には、迅くんが答えるといっているのに、それを止める権利なんかないと気づき、何も言えなくなった。
「よかったら付き合ってくれない? 僕もさ、この6日間で気づけば雫に惹かれたんだ」
「……えっ? いや、うん。もちろん、私でよければ……」
その言葉を一言一言読む説くまでに、少し、時間がかかった。
私の頭は、かつてないほどに混乱している。
まず、第一に返事があったこと。そして、第二に「付き合って」と言われ私の恋が実ってしまったからだ。
私から告白したのだから、断る理由はないので付き合うことを了承してしまったけれど、香澄とはどうなるのだろうか。まさか、迅が二股するような人には見えないし。
「で、雫、勘違いしてない? 僕と香澄が両想いだって思ってる? それはないよ。お互いにそういう感情はまったくない。仲がいいのは多分、同じ血縁関係だからみたい。僕も昨日知ったんだけど」
「えっ? 同じ血縁関係?」
頭が、パンクしそうだった。二つの「決戦」が終わり、ようやく安堵したのも束の間、次々と理解不能な情報が追加される。迅くんが香澄と仲が良いのは同じ血縁関係だから? だけど、同じ年齢で、兄弟姉妹ではないだろう。一体どういうこと……。
「ああ、これは香澄に話してもらった方がいいかな。とはいえ、かなり複雑だったから、ざっくりとになると思うけど。今から香澄を呼ぶね」
「ああ、うん」
迅くんが電話で香澄を呼び出すと、香澄はすぐにこの部屋に来てくれた。迅くんが、私が「二人は両想いだと思っていた」という話をすると、香澄は「そんなのありえない」とばかりに噴き出した。私は真剣に考えていたからこそ、おもりが外れたような気がした。
「迅くんはいいやつだけど、なんか、恋愛感情はまったく芽生えなくて、家族愛に近いものしか感じなかったんだよね。それから日記帳見たら、どうやら私たち、甥と叔母の関係らしい」
16歳同士で、甥と叔母。本当にそんなことがあり得るのかと思ったけれど、彼の日記帳の家系図には、確かに二人の名前が書かれており、甥が迅くん、叔母が香澄と記されていた。
補足された紙から分かった情報を、香澄が簡単に教えてくれる。香澄には本人も記憶にないらしいが、かなり年の離れた兄がいたそうだ。その兄はいわゆる「不良」で、成人する前に交際相手を妊娠させてしまい、自らの家族と縁を切ったようだ。その後、兄はすぐに交通事故で亡くなり、兄の先輩が父親代わりとなって世話をした。しかし、その母親も突然逃亡してしまい、兄の先輩が、残された子を養子縁組として正式に引き取ったそうだ。その子どもが迅くんだという。
私の混乱した頭では、すべてを追いきれなかった。ただ、二人は甥と叔母の関係で、間違いはないということだけ、分かればよかった。でも、確かに考えてみれば、2人の行動や言葉は「恋」よりも「愛」に近いものだったのかもしれない。
「まあ、仮に私たちが両想いでも、3親等以内だから結婚できないしね。ていうか、まさか雫って、今さっき、迅くんに告白したの?」
「……うん、そうです」
「あはは、そうなの!私は、2人、すごくお似合いだと思うよ。で、迅くんはなんて返したの?」
「いいよって」
「これで晴れて2人は恋人同士だね。そんな2人に朗報! 明日、この温泉街で小さなお祭りがあるでしょ? 規模は去年より小さくなりそうだけど、花火も上がるって。記念すべき初デートだね。もちろん、私も2人についていくけど」
一体、どこで私は、2人が両想いだという勘違いをしてしまったのだろう。
恥ずかしさで胸が熱くなる。だけど――そんな私を受け止めてくれる人がいる。好きでいてくれる人がいる。
だからもう、間違いなんて怖くない。
私の青春は、一瞬なんかじゃなかった。



