私が明日やるべきことが決まった。
一つは、お母さんと向き合い、本当の将来について話すこと。お母さんが私にこの旅館を継いでほしいと願っていること、その期待を背負うべきだということも、頭ではわかっている。この旅館を愛していることに偽りはない。でも、私はこの旅館の女将になるのではなく好きなことをしたい。テディベアを作る道に行きたい。
そして、もう1つは迅くんへの告白だ。最初は苦手だと思っていた彼を好きになるなんて、私自身、どうかしているのかもしれない。それでも、彼の中身を知っていくたびに、私の本当の気持ちは抑えきれなくなった。香澄が迅くんを好きで、迅くんも香澄を好きだということは、言葉で直接聞いたわけではないけれど、ほとんど確信している。だから、告白の答えは、大体想像がつく。それでも、伝えたいのだ。私の本当の気持ちを。迅くん、香澄、2人の恋を応援していたのに、邪魔をすることになってごめんなさい。
この二つのことは、ある意味、誰かに迷惑をかけることかもしれない。でも、もう自分をこれ以上我慢させたくない。許してくれなくてもいいから、ただ、聞いてほしい。
様子を見て、いったん部屋を出ていたお兄さんがドアのノックし戻ってきた。そして、なぜか、先生までもが部屋に入ってきた。何か膨らんだ袋のようなものを持っている。
「それ、何ですか?」
お兄さんの持っている袋に気づいた迅くんが尋ねる。もしかしたら、知られたくないものだったかもしれないが、さすが、迅くんだ。今の私には、その探求心が少し理解できるような気もする。いや、やはり、少し攻めすぎではないだろうか。
「ああ、これ? お菓子だよ。どうやら、明後日の午前6時には孤立状態が解消されるみたいだから、もう食料も心配なさそうだし。ということで、1日早いけど、パーティーしないかなと思って」
「えっ、やったー!」
「お菓子食べたかったです!」
「いいですね!」
私たちは、さっきまでのどこか重い空気を忘れたかのように、一気に声を弾ませた。私たちはまだ所詮は子供だ。お菓子一つでこんなにも喜んでしまう。いや、逆に、子供だからこそ、こんなふうに素直になれるのかもしれない。
「ちなみに、先生はどうして?」
この質問をしたのは迅くんではない。私だ。小さな旅館ではお客様同士でいつの間にか仲良くなっているということがあるので、たぶんそのような感じだろう。ただ、こうして二人が並ぶと、歳も比較的近いので、カップルに見えなくもない。ここで笑ってしまうのはさすがに失礼なので、心の中だけで抑える。
「私もみんなとお菓子食べてもいいでしょ? 私がほとんど出したんだから!」
「そうなんですか、ありがとうございます。一緒に食べましょう!」
お兄さんが数種類のお菓子を広げるとお菓子パーティーの開催だ。この場合、お兄さんと先生がお母さんとお父さん。そして私たち3人が子供。本当に家族だったらこれは理想でしかない。
「このチョコ、ほんのり溶けておいしいよ!」
「このポテチ、やっぱ味が最高だよね」
「何これすっぱー!」
「面白い顔! ほら、雫、ここに粉がついてるよ。」
最初は食べきれるかと思うほど山積みだったお菓子も、5人で食べると時計の針がほとんど進んでいなくても、みるみる減ってしまう。もしかしたら、私は明日、お母さんに嫌われ、香澄と迅くんに嫌われるかもしれない。そうすれば、こんな楽しい瞬間などまた遠くになり、居場所すらも失ってしまうかもしれない。今なら逃げることはできるけれど、逃げたくはない。迅くんが、せっかくくれた言葉なのだから。
お菓子パーティーが終わると、昨日はできなかったインタビューゲームを、お兄さんと先生も交えて5人で行った。お題と名前をそれぞれ書いた紙を作って、当たった人がその質問に答えるものだ。今日の質問に答える順番は、お兄さん、先生、迅くん、香澄、私の順番になった。質問する順番は私、香澄、お兄さん、先生、迅くんだ。
1番目。お兄さんへの質問。
「じゃあ、お兄さん。今ある記憶の中で一番昔の出来事は何ですか?」
「んー、確か初めて自分専用のカメラを使った時かな。初めて写真に撮ったのは、庭に咲いた赤いバラだったかな。もうはっきりとは覚えてないけど、とってもきれいだったよ」
「赤いバラですか、ロマンチックですね」
2番目。先生への質問。
「先生の恋人に求める条件は何ですか! これ私たちでやる予定だったので、こういうのもはいちゃってます! 確か、結婚してませんでしたよね? ここの機会に、暴露しちゃいましょう!」
「香澄ちゃんたらもう! 私一応、先生だよ! んー、でも出ちゃったんだからしょうがないか。清潔感があって、気配りができる、倹約家、たばこを吸わない、お酒も週1回以内、円周率を7桁以上いえる、今季のアニメを3つ以上見てる、洋食より和食派。あとは、常にポケットにお菓子を入れてくれる人かな」
「ええ、先生、理想高い! っていうか、細かい!」
「いや、でも一番は――近くにいて安心できる人かな」
「あ、それ分かります!」
3番目。迅くんへの質問。
「えっと、迅くんだっけ。迅くんへ質問は、過去に戻るか、未来に行くならどちらがいいですか? また、具体的にどのときですか? 定番だけど、よく考えると難しいよね」
「んー、小学校の時にいろいろあったので戻ってみたいなと思うことはあったけど、そうすると、今まで出会った人とも出会えない可能性もあるし、僕はどちらにも行きたいと思わないかな。ただ、お父さんの未来を覗いてみたいかも」
「確かにね。その可能性もあるしね。素敵」
4番目。香澄への質問。
「おお、香澄ちゃんへの質問は、初恋をしたことがある場合、どんな人でしたか? さっきの仕返しだね!」
「もう、先生ひどいですよー! んー、幼稚園生の頃かな。皆の誕生日をちゃんと覚えていて、足も速くて、かっこよくて、お米粒一つ残さずに食べて、犬よりも猫派で……そんな人でしたかね。でも、今は恋より、友情ですかね! なんちゃって!」
「話聞いてる限りだと、香澄ちゃんも理想高そうじゃん! 人のこと言えないでしょ!」
「そうですねー!」
最後。私への質問。
「じゃあ、最後。雫への質問。一生に一度でいいからやってみたいことってある?」
「一生に一度……。本音を言いたいだけ言えたらいいな」
「雫らしいな。僕ならいつでも聞いてあげるぞ」
「ありがとう」
インタビューゲームが終わった後は、正直、明日のことを考えすぎていて、何をしていたのかほとんど覚えていない。おそらく、いつも通り、旅館の手伝いをしたり、三人で話したりしていたのだろう。ただ、私が気づいた時には、もう布団で横になっていた。



