あれ…ここどこだっけ?

 あー、崖から落ちて下の天の川にでも落ちたかな。
 まあ、死にますよね。

 アオイには気持ちも伝えられたし、これで十分。

「…死にたくない。」

 我慢していた涙が一気に溢れた。

「っつ…ああ、泣くなよ…自分で決めたことなのに。」

 死にたくない死にたくない死にたくない

「アオイ…。」

 あいつもこんな気持ちだったのかな。
 そう云えば…と手にずっと握りしめていた短冊を見た。

『カナメ君と結婚出来ますように』

「…最悪。」

 なんでもっと早く伝えようとしなかったんだろう。
 なんであいつの言動に気づかないふりしたんだろう。
 あそこで、あの時…。

『少年、何でそこで泣いているんだよ。』
「!!」

 ばっと前を向く。
 そこには白髪の青年がいた。

「…誰?」
『誰ですか?ではなく誰?ねえ。随分と生意気な奴だな。』

 青年は立ち上がった。

『七夕のお話、知ってるだろ?』
「ええ、まあ。」
『織姫と彦星がなまけちゃって天帝に怒られて、天の川が~みたいなの。』

 青年は目をぐっと見開いてカナメに近づいた。

『それ僕。』
「は…?」
『天帝なんだよ。僕。』

 何言ってんだ?こいつ。

『君は天の川で死んだだろう。願いを持って。そんな君には二つの選択肢が今ある。』
「ここはどこだ?」
『彦星となって人々の願いを叶えるか。』
「おい。」
『現世に戻って、織姫の願いを叶えるか。』
「アオイの願いを?」

 アオイの願いは短冊を見つけることと、あと一つ。
 多分、短冊に書いてあった奴。
 はあー、眠い。そんなの決まってるだろ。

「現世に戻る。」
『あはっ、君も傲慢だね。「みんなの願いが叶いますように」とかいうのはうそだったのかな?』
「何言ってんだよ。」

 天帝は目を細めた。

「今から叶えに行くんだろうが。俺とあいつの願い。」
『…これだから、コイは嫌いなんだよ。人を、神を、簡単に狂わせる。』
「どうも。」

 白い空間からカナメ、彦星が消えた。