「結局、『みんなの願いが叶いますように。』~とかいう無難な奴にしたんだ。」
「うるっさいな、母さんだって『カナメが健康でいられますように。』だろ。結局人のことじゃん。」
「まあね。でも、カナメ君はまだ子供なんだから。七夕位、本音を書きなさい。」
「本音…。」

 短冊を村の真ん中の大きな笹にかけたあとに、カナメは一人で家に帰ってきた。
 アオイなしでは七夕祭りも楽しめそうにない。

『七夕位、本音を書きなさい。』
「本音か…。」

 願いだってないわけじゃない。でもそれを願って叶わなかったらそれこそもう何にもすがれなくて、悲しいじゃないか。
 けど、一回なら…。
 いやいや、無理だ。恥ずかしいし。けど、そうやって考えると「恥ずかしい」って思うことでも短冊にちゃんと書けたあいつはすごいな。

「アオイ…。」

 もうがむしゃらになってさっきしめたばかりの窓をばんっと勢い良く開けた。
 さっき外にいたときには感じられないほどの爽快感を感じた。

「綺麗な星空だ。」

 さっきまで心に引っかかっていたものが何かストンと落ちた。
 今年は、今日くらいは正直に自分の願いを言ってみてもいいじゃないか。
 叶わないとわかっていても。けど…。

 七夕に願いを言って何が悪い!!
 カナメは大きく息を吸い込んだ。

「アオイに…『アオイにもう一度だけ会いたい。』!!あいつの願い『一緒に最後まで七夕祭りに行きたいも叶えたい。』!!」

 駄目だ。さっきで最後って決めたのに。アオイのことで泣くのは。こんなんじゃ
『七夕のたびに』

「は?」

『七夕のたびにさあ、もーまいっちゃうよね。』

 太陽のような笑顔で、キラキラ星のような着物を着て、おっとりとした声色で。
 そこには彼女がいた。
 一年間片時も忘れなかった彼女が。

『ただいま。カナメ君。』
「アオイ…?」