僕を刺し貫くような眩しい光がまた、視界を奪っていく。そして、あの女性の声が聞こえてきた。
「時空をさすらいし旅人よ。時代が流れても変わらない『運ぶ』ことの大切さを、お前は未来の人々に届けてくれるな?」
「未来?」
「そうだ。まだ、お前の旅は終わってはいない」
「終わってはいない、ってどういうことだ……?」
「終わってはいない、ってどういうことだ……?」
「だって、終わってないんですもん。間もなく終電ですよ」
「終わってはいない、ってどういうことだ……?」
「いや、だから、いい加減、目を覚ましてくださいって。さっきから、同じことばかり言って」
「え?」
天井と後輩の顔が視界に入ってくる。
後輩は僕の両腕を掴み、揺さぶりながら何とか目を覚まさせようとしていたようだ。
休憩時間に夢の中でうなされていたらしい。
「まだ仕事は終わってないんですよ、先輩。いつまでも居眠りしてないで、起きてくださいよ」
ここは、鉄道会社の事務所。
そうだ、僕はここの従業員で、電車の運転士をしているのだ。
「夢、……か」
「休憩はここまでですよ、先輩。これ、運行確認票です。アルコール検査はちゃんと済んでいますか?」
几帳面な後輩は、淡々と今日の仕事内容の説明をする。
「なあ、今、ここは、西暦何年だ?」
後輩の話を遮って、僕は聞いてみた。
「何を言ってるんですか。西暦2025年ですよ、当たり前じゃないですか。それより、間もなく先輩が運転する終電の出庫ですから、早めに点検してくださいね」
「そうか……」
色んな記憶の断片が少しずつ、つながっていった。
どうやらこれが、現実の世界のようだ。窓の外を眺めると、真っ暗で大きな三日月が夜空に浮かび上がっている。
突然、携帯電話からけたたましく着信音が流れた。表示画面を見ると、コールしてきたのは、聖奈だ。
急いで僕は電話に出る。
「ねえ、明日は結婚一周年記念日でしょ。夕方には帰って来られるの? せっかくだから、仕事終わりにレストランで一緒に食事しようよ」
その時、僕は今、自分の置かれている現実のすべてを理解した。
「そうだな。これから終電を運んで、泊り勤務をして戻るから、……夕方は、何とか間にあうと思う」
「本当に? あなたは一度失敗しないと分からないですからね」
「大丈夫だよ。きっと約束は守る」
そしてふと、腕時計を見た。
10月30日、午前0時ジャストだった。(了)
「時空をさすらいし旅人よ。時代が流れても変わらない『運ぶ』ことの大切さを、お前は未来の人々に届けてくれるな?」
「未来?」
「そうだ。まだ、お前の旅は終わってはいない」
「終わってはいない、ってどういうことだ……?」
「終わってはいない、ってどういうことだ……?」
「だって、終わってないんですもん。間もなく終電ですよ」
「終わってはいない、ってどういうことだ……?」
「いや、だから、いい加減、目を覚ましてくださいって。さっきから、同じことばかり言って」
「え?」
天井と後輩の顔が視界に入ってくる。
後輩は僕の両腕を掴み、揺さぶりながら何とか目を覚まさせようとしていたようだ。
休憩時間に夢の中でうなされていたらしい。
「まだ仕事は終わってないんですよ、先輩。いつまでも居眠りしてないで、起きてくださいよ」
ここは、鉄道会社の事務所。
そうだ、僕はここの従業員で、電車の運転士をしているのだ。
「夢、……か」
「休憩はここまでですよ、先輩。これ、運行確認票です。アルコール検査はちゃんと済んでいますか?」
几帳面な後輩は、淡々と今日の仕事内容の説明をする。
「なあ、今、ここは、西暦何年だ?」
後輩の話を遮って、僕は聞いてみた。
「何を言ってるんですか。西暦2025年ですよ、当たり前じゃないですか。それより、間もなく先輩が運転する終電の出庫ですから、早めに点検してくださいね」
「そうか……」
色んな記憶の断片が少しずつ、つながっていった。
どうやらこれが、現実の世界のようだ。窓の外を眺めると、真っ暗で大きな三日月が夜空に浮かび上がっている。
突然、携帯電話からけたたましく着信音が流れた。表示画面を見ると、コールしてきたのは、聖奈だ。
急いで僕は電話に出る。
「ねえ、明日は結婚一周年記念日でしょ。夕方には帰って来られるの? せっかくだから、仕事終わりにレストランで一緒に食事しようよ」
その時、僕は今、自分の置かれている現実のすべてを理解した。
「そうだな。これから終電を運んで、泊り勤務をして戻るから、……夕方は、何とか間にあうと思う」
「本当に? あなたは一度失敗しないと分からないですからね」
「大丈夫だよ。きっと約束は守る」
そしてふと、腕時計を見た。
10月30日、午前0時ジャストだった。(了)



