プーン、と鳴り響くラジオの時報音が頭の中でこだまし、僕は目を覚ました。
「ただいま時刻は、ちょうど午前0時。日付かわって、10月30日のミュージックアワー、go and go and go on!」
 カーラジオではDJが流暢に番組のオープニング・トークを繰り広げている。
「大丈夫かい、兄ちゃん?」
 トラックのドライバーは不思議そうに僕の顔を覗き込んだ。
「あれ? 夢……か」
「夢? そんな訳ないだろ。兄ちゃんはほんの1秒ほど目を閉じて飛び起きただけだから、眠ってる訳ないよ。ホントに変わったことを言うね」
「1秒……? まあ、いいや。ここは東名高速のどの辺です?」
「富士市辺りだ」
「まだ富士市かあ。横浜までまだまだだなあ。それより、長距離のトラックドライバーって仕事は大変そうですね」
「うーん、大変だけどよ、俺はこの『運ぶ』って仕事に誇りを感じてる。大昔から人は荷を背負い、馬に乗って江戸を目指したもんだ。今も何ら変わりない。街と街のつながりは、そのまんま人と人のつながりなんだわ。重くて大きいもの、誰だって運ぶのは大変だよな?」
「そうですね」
「それをさっと全国へ運ぶのさ。送り主からの『物』とその『想い』を届け先の人に。届け先によ、商品を時間内に手渡すと嬉しそうな顔するんだよ。その時に、なんだかこっちまで嬉しい気持ちになる」
「いい話ですね」
「どんなに時代が変わってもよ、『運ぶ』ってことは絶対になくならない。俺たちは時代を越えて、荷物と心を届ける旅人だ。今だって大昔と同じように峠を超え、街と街、人と人を繋ぐ旅をしてんだよ」
「旅人か。素敵な仕事ですね。僕も今、行くあてがなくって、さすらう旅人のような気持ちです。いつも道に迷ってばかりでいつも後悔してばかりだ……」
「そうなのかい? じゃあ、あんたは横浜を目指すこのヒッチハイクの旅で何をしようとしているんだい?」
「実は、横浜の青葉台に去年まで付き合っていた聖奈という女性がいます。僕は今まで、一瞬の心の迷いから多くの過ちを犯してきました。僕が聖奈を手放してしまったのも、ほんの一瞬、まさにたった1秒程の迷いが原因なんです。あの時、素直に『行くな。一緒にいて欲しい』って言えなかった自分を後悔しています」
「そうなのかい」
「あれはちょうど、1年前の今日の話です。時間はあっという間に過ぎてしまいました。これから罪を背負って会えなくなる前に、1年前の1秒の過ちをリセットしたいんですよ」
「罪? ……兄ちゃんもいろいろ大変なんだなあ。よし、その思い、俺が届けてやるよ」
「ホントですか? ところで、今何時です?」
 再び、強烈な眠気が襲ってきた。
「10月29日の午後11時59分59秒だな、兄ちゃん」
「あれ? 時間がさっきより巻き戻って……るじゃ……ない……です……か」