ーガチャ…（ただいま、もう2時か早く寝よ）
布団に入ってまた街の光を見る。「教えてあげる」そんなあいつの言葉が頭から離れない。
（今日は眠れそうにないな…）
結局その日はカーテンの隙間から漏れるネオン色の光を見つめながら時間を潰した。

ー今から6年前、小学5年生だった夏休みに僕は週明け、近くの公園で、同級生で同じクラスだった夏樹青砥と一緒に遊ぶ予定を立てていた。その時の俺は浮かれてて明後日の予定なのにもうすでに虫取り網や籠を準備していた。青砥や青砥の家族があんなことに巻き込まれているとも知らずに…その事件はもう夕暮れの19時に俺の家族のもとに連絡が入ってきた。青砥と僕は家族絡みの仲だったからだ。電話越しに聞こえた知らない女性の声はとてつもなく暗く憂鬱そうな声。
「甘崎様でいらっしゃいますか？突然なことなのですが、夏樹さんご一家が事故に巻き込まれました。親戚の皆様は遠くに住んでらして、緊急連絡先に甘崎様のお名前が記入されていたのでご連絡させていただきました。現在うちの病院で緊急入院されています」
そんな報告を受けてうちの家族はすぐに病院へと車で向かった。僕も親から軽く説明は受けていて、とても焦っていた。

ー病院に着いて親が先生達から説明を受けている。後から聞いた話だが、どうやら高速に繋がる田舎道で居眠りしていた大型トラックに突っ込まれたそうだ。青砥の乗っていた一般車はトラックの勢いに押しつぶされ、近くの田んぼに飛ばされた。その時、助手席と運転席に座っていた青砥の父と姉は一瞬にして押しつぶされ、母と青砥は破壊された車のドアから外へと吹き飛ばされた。その結果運ばれた時には、父姉共に心肺停止の重体、青砥と母は複数箇所の骨折と打撲で意識不明。さらに最悪だったのは
「運転士がひき逃げした…？」
「はい、もう捕まってはいますがご家族があんな様子では何も…しかも通報が遅れたせいで搬送も遅れて、先ほどお姉様とお父様が先ほどお亡くなりになられました…」
「青砥は！青砥はどこにいるの！！父さん！」
「今集中治療室にいて会えないんだ、待ってあげなさいまた会えるから…」
「嫌だ！どこだよ早く合わせて！！」
その年にしてはおとなしかった僕もその時は過去にないほどの癇癪を起こしたそうだ。その日、僕たちの家族は何もできず、僕は家へと返された。

ーそれから二週間ほどだったからだろうか、青砥の母が意識を取り戻したという連絡が入って父と母が病院に向かった。俺は癇癪を起こすのを考慮されてか留守にさせられ、青砥の無事を祈り続けた。しばらくして親は帰ってきたが何も説明してくれなかった。中学2年生になってから詳しく説明を受け知ったが、青砥の母は1〜3年の間の過去の記憶を失っているそうで、事故当時を思い出させようとすると気を失ってしまうらしい。その3日後青砥の意識が戻った、急いで病院に向かった、でもその時の青砥はどこか別人のようでもっとずっと遠くで生死を彷徨っている亡霊のように何か、薄いものになっていた。

「…青砥？だ、大丈夫？痛いところとか…先生呼んであげる…」
「…あの、君…誰？」
「えっ…」
僕はただ立ち尽くすしか無かった。ずっと待ってた青砥が結局帰ってこなかったショックが脳裏にこびりついた。病院の先生は一時的な記憶障害と言ったが全くもって、青砥は戻ってこなかった。そして、母が育児をできる状態でないため、青砥は遠くに住む親戚の家に住むことが決まり、僕と青砥の交流は途絶えてしまったのだ。これがきっと僕らの運命だった。この短いようで長かった青砥と僕の交流は簡単に引き裂かれてしまうような脆くて儚い運命だった。