ー「合計で498円です。はい、500円お預かりいたします。
2円のお返しです。ありがとうございました」
何も考えずにマンゴーとりんごのスムージーとサラダチキンを買った。いつも歩いている好きでもない道を通ってあのなんの変哲もない、謎に広い池がある公園に行こう。ただ足の赴くままに。あたりは暗く、街灯が豆電球のように頼りなく灯って闇に飲み込まれそうな星をさらに見にくくしている。
ー(いつもより遅く出掛けたみたいだ)11半時に近い。静けさがさらに跳ね返ってきそうなほど静かだった。
(小腹も空いてるし早く食べよう)
「…なんか普通だな」
2日に一回ほどこうして散歩しているがなんの変哲もない日常。
「暇だな…」
…コツ…
「ん、なんだ今の音…」
リズムに合わせてコツコツと固いものが地面に当たる音がする。(探しに行くか暇だし)
コツ…
(どんどん近づいてるみたいだ)
ーコツ
(すぐそこにいる、木の影から覗くか…)(…っ!風が!)
急な風に煽られてしなった木の枝の隙間から、透き通るような光り輝くのプラチナブロンドのような妖精が見えた気がした。(綺麗だな)でもあれは、人だ。微かに音楽が聴こえる。どこかで聴いたことがあるクラシック、それに合わせて人が踊っている。そしてその後ろには…
「大きな満月…」
「誰かいる?」
(やばい、バレた。人に踊ってるとこなんか誰も見られたくないよな普通、どうしよ)
「ねぇ、何してるの?」
「…っ!!ご、ごめん!!つい音が聴こえて見にきちまった」
「なんだ、そんなことか!気にしなくていいのに」
「で、どうだった?僕のバロックダンス」
「バ、バロック?」
(んなもん、しらねぇよ、なんだよなんちゃらダンスって)
「ふふっ、なんだそれって感じかな?」
(げっ、こいつ変にニコニコしやがって)
「バロックダンス…簡単に言えばヨーロッパの貴族がパーティーで踊るようなダンスのことだよ、シンデレラが踊ってたやつみたいな」
「へ、へぇー…そうなんだな」
(気まずいな、早く逃してくれよ…)
その時にまた風が吹いた。強い風、でも夏の蒸し暑さや青春してるやつの声、学校生活での嫌な気持ちまで何もかも吹き飛ばしてくれるような風だ。コイツの綺麗な髪がサラサラと靡いて光を散らす見ないに輝いてた。思わず息を呑む。
「ねぇ、もしよかったお兄さん、僕と一緒に踊りませんか」
風の音がうるさかったが、よく聴こえた、よく響いた、心のどこかに。でも理解が追いつかなくて頭が真っ白になっていく。そしてコイツの後ろに綺麗な満月。今にも全てを包み込んでしまいそう。
「えっ、は?…何を…言って」
「君と一緒に踊りたいなぁ、だめ?」
「な、なんでお前と踊んなきゃならねぇんだよ!そもそも俺踊ったことなんて…」
「そう言ってくれるってことは検討してくれてるの!?きみのそうゆうとこ好きだよ!」
(うわ、すげーキレーな笑顔、光ってんじゃん…いや、そうじゃなくて、どうしよペースに飲まれてる)
「そうゆうわけじゃなくて」
「ねぇ、一回踊ってみない?」
「うわっ!ちょっと手引っ張んなっ!」
「ふーん、ちょい照れって感じかな、とりあえず踊ろうか」
今時、時代遅れのラジカセをセットして、さっきも流れた曲が流れ始めた。
「月の光っていうクロード・ドビュッシーの曲だよ。元々ダンスはついてないけど勝手につけてみたんだ」
軽快なステップが踏まれて、コツコツと足音が鳴り始める。自然と足がついていく。
(コイツがアシストしてくれてんのか)
肩に手を乗せ合って、腰に手を回し合う。この謎の男が近づいてくる。大学生くらいか?俺よりも20センチくらい違うだろう。ゆったりと時間が過ぎていく。コイツの着ているワイシャツが光に透けて妖精の羽みたいだ、しかも月の光にあたって目は金色に輝いている…。
「綺麗だな…」
「えへっ、そうかなぁ?ふふっ…」
「お前じゃねぇよ!月が綺麗だなって!」
(何言ってんだ俺、正気の沙汰じゃねぇぞ)
「えー!出会ってすぐ告白しちゃうの!?積極的だね〜」
「ちげぇって…」
「からかいすぎたよ、ごめんって反応が可愛くてつい」
「/////っ!!」
「…まだ曲は続いてるよ」
「はいはい…」
ー(なんとか踊り切ったな…妙に疲れたが、夢を見てるみたいだったな)
「どうだった?意外と面白いでしょ?」
「まぁ…」
「ねね、これからも踊らない?この時間帯だったら僕、大体この公園にいるよ!」
「えっ!まさか毎日か?流石に無理だぞ」
「ちゃんと考えてくれて嬉しいな」
「うっ…まぁ少しならいいぜ…」
「ほんと!?最高だよ!!そうだ連絡先交換しない?」
「まぁいいよ、はい」
「イェーイ!ありがと〜、青砥くん?あれ、同じクラスの子だよね…」
「甘崎千陽!?おまえ甘崎だったのかよ!」
(うわ、全然気がつかなかった顔もよくみたことなかったし)
「とりあえず、いつ踊るか決めよ!」
(じゃあ…)
「月が綺麗に出てるなら踊ってもいい…」
「ただし一週間に一回が限度だ。踊る日は俺が連絡する」
「うん、わかった。じゃあこれからよろしくね、学校でも」
「…わかったよ」
こうして俺はコイツと不思議な交流を開始することになったのだった。
ーガチャ…(ただいま)
静かに、足音を立てずに部屋に入る。母は…寝ている。ベランダから少し外を見てみた、夜景だ。すぐそこに繁華街があって街の明かりがキラキラしている。
(こんな綺麗な景色、今まで見てなかったのか。てか、なんだよ月が綺麗な夜は甘崎が綺麗だからって踊ってやるなんて…まぁいいか…)
俺にとって色彩なんて感じなかった世界が、ほんの少し鮮やかに見えた気がして、その日は胸が高鳴ってなかなか寝付けなかった。
2円のお返しです。ありがとうございました」
何も考えずにマンゴーとりんごのスムージーとサラダチキンを買った。いつも歩いている好きでもない道を通ってあのなんの変哲もない、謎に広い池がある公園に行こう。ただ足の赴くままに。あたりは暗く、街灯が豆電球のように頼りなく灯って闇に飲み込まれそうな星をさらに見にくくしている。
ー(いつもより遅く出掛けたみたいだ)11半時に近い。静けさがさらに跳ね返ってきそうなほど静かだった。
(小腹も空いてるし早く食べよう)
「…なんか普通だな」
2日に一回ほどこうして散歩しているがなんの変哲もない日常。
「暇だな…」
…コツ…
「ん、なんだ今の音…」
リズムに合わせてコツコツと固いものが地面に当たる音がする。(探しに行くか暇だし)
コツ…
(どんどん近づいてるみたいだ)
ーコツ
(すぐそこにいる、木の影から覗くか…)(…っ!風が!)
急な風に煽られてしなった木の枝の隙間から、透き通るような光り輝くのプラチナブロンドのような妖精が見えた気がした。(綺麗だな)でもあれは、人だ。微かに音楽が聴こえる。どこかで聴いたことがあるクラシック、それに合わせて人が踊っている。そしてその後ろには…
「大きな満月…」
「誰かいる?」
(やばい、バレた。人に踊ってるとこなんか誰も見られたくないよな普通、どうしよ)
「ねぇ、何してるの?」
「…っ!!ご、ごめん!!つい音が聴こえて見にきちまった」
「なんだ、そんなことか!気にしなくていいのに」
「で、どうだった?僕のバロックダンス」
「バ、バロック?」
(んなもん、しらねぇよ、なんだよなんちゃらダンスって)
「ふふっ、なんだそれって感じかな?」
(げっ、こいつ変にニコニコしやがって)
「バロックダンス…簡単に言えばヨーロッパの貴族がパーティーで踊るようなダンスのことだよ、シンデレラが踊ってたやつみたいな」
「へ、へぇー…そうなんだな」
(気まずいな、早く逃してくれよ…)
その時にまた風が吹いた。強い風、でも夏の蒸し暑さや青春してるやつの声、学校生活での嫌な気持ちまで何もかも吹き飛ばしてくれるような風だ。コイツの綺麗な髪がサラサラと靡いて光を散らす見ないに輝いてた。思わず息を呑む。
「ねぇ、もしよかったお兄さん、僕と一緒に踊りませんか」
風の音がうるさかったが、よく聴こえた、よく響いた、心のどこかに。でも理解が追いつかなくて頭が真っ白になっていく。そしてコイツの後ろに綺麗な満月。今にも全てを包み込んでしまいそう。
「えっ、は?…何を…言って」
「君と一緒に踊りたいなぁ、だめ?」
「な、なんでお前と踊んなきゃならねぇんだよ!そもそも俺踊ったことなんて…」
「そう言ってくれるってことは検討してくれてるの!?きみのそうゆうとこ好きだよ!」
(うわ、すげーキレーな笑顔、光ってんじゃん…いや、そうじゃなくて、どうしよペースに飲まれてる)
「そうゆうわけじゃなくて」
「ねぇ、一回踊ってみない?」
「うわっ!ちょっと手引っ張んなっ!」
「ふーん、ちょい照れって感じかな、とりあえず踊ろうか」
今時、時代遅れのラジカセをセットして、さっきも流れた曲が流れ始めた。
「月の光っていうクロード・ドビュッシーの曲だよ。元々ダンスはついてないけど勝手につけてみたんだ」
軽快なステップが踏まれて、コツコツと足音が鳴り始める。自然と足がついていく。
(コイツがアシストしてくれてんのか)
肩に手を乗せ合って、腰に手を回し合う。この謎の男が近づいてくる。大学生くらいか?俺よりも20センチくらい違うだろう。ゆったりと時間が過ぎていく。コイツの着ているワイシャツが光に透けて妖精の羽みたいだ、しかも月の光にあたって目は金色に輝いている…。
「綺麗だな…」
「えへっ、そうかなぁ?ふふっ…」
「お前じゃねぇよ!月が綺麗だなって!」
(何言ってんだ俺、正気の沙汰じゃねぇぞ)
「えー!出会ってすぐ告白しちゃうの!?積極的だね〜」
「ちげぇって…」
「からかいすぎたよ、ごめんって反応が可愛くてつい」
「/////っ!!」
「…まだ曲は続いてるよ」
「はいはい…」
ー(なんとか踊り切ったな…妙に疲れたが、夢を見てるみたいだったな)
「どうだった?意外と面白いでしょ?」
「まぁ…」
「ねね、これからも踊らない?この時間帯だったら僕、大体この公園にいるよ!」
「えっ!まさか毎日か?流石に無理だぞ」
「ちゃんと考えてくれて嬉しいな」
「うっ…まぁ少しならいいぜ…」
「ほんと!?最高だよ!!そうだ連絡先交換しない?」
「まぁいいよ、はい」
「イェーイ!ありがと〜、青砥くん?あれ、同じクラスの子だよね…」
「甘崎千陽!?おまえ甘崎だったのかよ!」
(うわ、全然気がつかなかった顔もよくみたことなかったし)
「とりあえず、いつ踊るか決めよ!」
(じゃあ…)
「月が綺麗に出てるなら踊ってもいい…」
「ただし一週間に一回が限度だ。踊る日は俺が連絡する」
「うん、わかった。じゃあこれからよろしくね、学校でも」
「…わかったよ」
こうして俺はコイツと不思議な交流を開始することになったのだった。
ーガチャ…(ただいま)
静かに、足音を立てずに部屋に入る。母は…寝ている。ベランダから少し外を見てみた、夜景だ。すぐそこに繁華街があって街の明かりがキラキラしている。
(こんな綺麗な景色、今まで見てなかったのか。てか、なんだよ月が綺麗な夜は甘崎が綺麗だからって踊ってやるなんて…まぁいいか…)
俺にとって色彩なんて感じなかった世界が、ほんの少し鮮やかに見えた気がして、その日は胸が高鳴ってなかなか寝付けなかった。

