小学5年生の夏だっただろうか、空がアドリアの海のように青くて少し黒い吸い込まれそうな夏だった。誰かと車に乗って近くの遊園地に向かって、道を曲がって進んで信号で止まって。ラジオからよくわからないクラシック音楽が流れていた。誰かとくだらない話をして弛みなく時間が過ぎていく。ただ、この時間がずっと続いてほしいと願えるほどに楽しんでいたのだ。
突然、ドカンと大きな音がして視界が一周したところまで覚えている、そこから何が起こったのか、自分は何をしたのか記憶が曖昧で思い出せないままだ…
気がつけば親戚の家で生活していて、見慣れぬ通学路を知らない人達と歩く、そんな色褪せたモノクロの日々が始まっていった。
「青砥一緒に帰ろーぜ!」
後ろから清水和希のうるさい声が近づいてきた。
「あぁ」
「うわ、冷たいなぁ…いいんだな?この俺が誘ってんだしいいよなぁ?そうだなんか奢ってやるよ!ほんと俺優しい友達だぜ…」
「さっさと帰るぞ」
続いて少し怠そうな返事が返ってくる。俺はそんなに冷たいのだろうか。いや、普通だろう。
「千陽くんっ!駅の近くに新しいカフェができたんだって〜、一緒に行かない?」
「私も行きたいっ!みんなで行こうよ〜」
いきなりクラスの一軍達の声が聞こえてきた。
それに続いて少しの感情もこもっていないような「いいよ〜」と言う軽い声が聞こえてきたと思うと、隣からその女子達と引けを取らないチャラい声が聞こえてくる。
「やっぱモテるんだなあ甘崎くんはよお、俺も女子と遊びたい!」
「遊んでこれば?」
「遊べるならとうに遊んどるわ!!」
そんな言葉を聞いて俺は疎外感を感じている、自分には当てはまらない言葉だ、友達と遊ぶそんなことかれこれ小学生以来しただろうか。考え事をしているうちにスマホの着信音が甲高く鳴った。見てみると母親からだ。
「やっぱ俺先帰るわ」
「はぁ!?なんで俺を置いていくんだよぉ〜」
急がなければ、母には俺以外何にもないんだ。俺が親戚の家に預けられている間、母のそばには誰もいなかった。病院でも孤独だったのに、退院してからもなんてことはさせれない。そうして俺はアイツを置いて駅まで走った。
ー「ただいま…」
「青砥!!こんな時間まで何してたの!小学生がこんな時間まで出歩いてちゃダメでしょ?」
「ごめん、気をつけるよ」
「もうご飯はできてるんだから、手を洗って食べましょう。その後は宿題をしなくちゃね」
「うん、わかった…」
俺の母さんは突如として俺が小学生の頃の記憶しか持たない状態になってしまった。俺はその頃の記憶を持っていない。
なぜそうなったのかゆういつ知っているはずの母がこの状態では俺は一部の記憶を知る由もない。親戚も俺をいきなり預けられたと言って一部始終はわからないらしい。病院側はこのような症例は極めて少なく、治し方がわからないため、経過観察しかできないそうだ。
ー「いただきます」
今日は母の得意料理である鮭のムニエルだ。塩加減がちょうど良くて、パサつきもない。みりんのほのかな甘さと醤油の香ばしさを感じる俺が昔から好きな母さんの料理。
…「美味しい?」
「うん、とっても美味しいよ。母さんの作った料理が世界一だ」
「本当?あおちゃんにそう言ってもらえて、お母さんとっても嬉しいわ!」
「これからもたくさん食べさせてね」
「なんて、いい子なのかしらうちのあおちゃんは…」
「あはは、冗談なんて言わなくていいんだよ母さん」
「冗談じゃないわよ!」
こんな日々が続くだけでも良かった。母さんの記憶も俺の記憶も戻らなくても、家族がいったいどんな形をしていたのか知らなくてもいいと思った。でも、心のどこかではそれを否定する自分がいる。
ー「母さん、おやすみ」
「おやすみね、あおちゃん」
そうやって二人で8畳のたたみ部屋で和風なミニシャンデリアの電気を消して並べられた布団に入る。母さんはぐっすりと眠るが、俺はなかなか寝付けないのが日常。(コンビニにでも行くか…)
そうして俺は家を後にした。
突然、ドカンと大きな音がして視界が一周したところまで覚えている、そこから何が起こったのか、自分は何をしたのか記憶が曖昧で思い出せないままだ…
気がつけば親戚の家で生活していて、見慣れぬ通学路を知らない人達と歩く、そんな色褪せたモノクロの日々が始まっていった。
「青砥一緒に帰ろーぜ!」
後ろから清水和希のうるさい声が近づいてきた。
「あぁ」
「うわ、冷たいなぁ…いいんだな?この俺が誘ってんだしいいよなぁ?そうだなんか奢ってやるよ!ほんと俺優しい友達だぜ…」
「さっさと帰るぞ」
続いて少し怠そうな返事が返ってくる。俺はそんなに冷たいのだろうか。いや、普通だろう。
「千陽くんっ!駅の近くに新しいカフェができたんだって〜、一緒に行かない?」
「私も行きたいっ!みんなで行こうよ〜」
いきなりクラスの一軍達の声が聞こえてきた。
それに続いて少しの感情もこもっていないような「いいよ〜」と言う軽い声が聞こえてきたと思うと、隣からその女子達と引けを取らないチャラい声が聞こえてくる。
「やっぱモテるんだなあ甘崎くんはよお、俺も女子と遊びたい!」
「遊んでこれば?」
「遊べるならとうに遊んどるわ!!」
そんな言葉を聞いて俺は疎外感を感じている、自分には当てはまらない言葉だ、友達と遊ぶそんなことかれこれ小学生以来しただろうか。考え事をしているうちにスマホの着信音が甲高く鳴った。見てみると母親からだ。
「やっぱ俺先帰るわ」
「はぁ!?なんで俺を置いていくんだよぉ〜」
急がなければ、母には俺以外何にもないんだ。俺が親戚の家に預けられている間、母のそばには誰もいなかった。病院でも孤独だったのに、退院してからもなんてことはさせれない。そうして俺はアイツを置いて駅まで走った。
ー「ただいま…」
「青砥!!こんな時間まで何してたの!小学生がこんな時間まで出歩いてちゃダメでしょ?」
「ごめん、気をつけるよ」
「もうご飯はできてるんだから、手を洗って食べましょう。その後は宿題をしなくちゃね」
「うん、わかった…」
俺の母さんは突如として俺が小学生の頃の記憶しか持たない状態になってしまった。俺はその頃の記憶を持っていない。
なぜそうなったのかゆういつ知っているはずの母がこの状態では俺は一部の記憶を知る由もない。親戚も俺をいきなり預けられたと言って一部始終はわからないらしい。病院側はこのような症例は極めて少なく、治し方がわからないため、経過観察しかできないそうだ。
ー「いただきます」
今日は母の得意料理である鮭のムニエルだ。塩加減がちょうど良くて、パサつきもない。みりんのほのかな甘さと醤油の香ばしさを感じる俺が昔から好きな母さんの料理。
…「美味しい?」
「うん、とっても美味しいよ。母さんの作った料理が世界一だ」
「本当?あおちゃんにそう言ってもらえて、お母さんとっても嬉しいわ!」
「これからもたくさん食べさせてね」
「なんて、いい子なのかしらうちのあおちゃんは…」
「あはは、冗談なんて言わなくていいんだよ母さん」
「冗談じゃないわよ!」
こんな日々が続くだけでも良かった。母さんの記憶も俺の記憶も戻らなくても、家族がいったいどんな形をしていたのか知らなくてもいいと思った。でも、心のどこかではそれを否定する自分がいる。
ー「母さん、おやすみ」
「おやすみね、あおちゃん」
そうやって二人で8畳のたたみ部屋で和風なミニシャンデリアの電気を消して並べられた布団に入る。母さんはぐっすりと眠るが、俺はなかなか寝付けないのが日常。(コンビニにでも行くか…)
そうして俺は家を後にした。

