眼球をうろつかせてから疑問を口にしかけたとき、突然ガタンと車が揺れた。

「え?」

 車がゆっくりと路肩に停車して、新見駅長がゆっくりと私の顔を見た。言いにくそうに新見駅長の眉間に皺が寄ったが、私も何が起こったのかは察しがついた。先に口を開く。

「パンク、でしょうか」
「おそらくそうでしょう……面倒に巻き込んでしまったのはこちらのようで、申し訳ありません」

 新見駅長は大きくため息をついてから、私に深く頭を下げた。私は勢いよく両手を目の前で振った。新見駅長が謝るべきことなど一つもない。

「い、いやいや、私のことを迎えに来なかったらパンクしなかったかもしれないんですから、どう考えても私のせいですよ?!」

 今まで初対面の緊張と反省から静々としていた私が急にぺらぺら話し出したからか、新見駅長の切れ長の瞳の瞬きが増えた。私はもう開いてしまった口に歯止めをかけなかった。

 彼に、トラブルに巻き込んでしまった、なんて罪悪感を微塵も感じさせたくなかった。私は前のめる。

「替えのタイヤありますよね?交換、手伝いますよ」
「そんなわけには……」
「実は私もっと雪の多い土地の出身です。地元ではよく言います。『タイヤ交換とチェーン巻けて一人前』と」

 ぐいっと運転席の新見駅長に向かって身体を寄せて、私は両手を拳にして意気込みをアピールした。

「私一人前なので、やれます!」

 新見駅長の顔がくしゃりと崩れて、ふはっと笑った。その笑い顔が意外にも幼くて目が惹かれた。

「凛子さんがタフな方で驚きました」
「す、すみません。勢いが良いとは言われるんですが」
「確かに、伝言板での本のおすすめの勢いも良かったです」
「あ……やっぱりあれ、勢い良すぎましたよね……あとで反省しました」
「私は、嬉しかったですが」

 新見駅長は目尻に笑い皺を刻みながらさらりと言う。彼が投げた言葉を飲み込み切れないうちに、彼は手袋をつけてドアを開けた。冷たい雪風が車内に舞い込んだ。

「恐縮ですが、お手伝いいただいてもよろしいでしょうか。その方が早く帰れると思いますので」
「一人前の手さばき見せます」
「では私も昔はガソリンスタンドでアルバイトしていた腕をご披露しましょう」
「これは手早そうなタッグですね」

 私はマフラーを巻き直して、くすくす笑いながら小雪の夜へと躍り出た。新見駅長と初めての共同作業だなんて、こんなにワクワクするタイヤ交換は初めてだ。