あいつのこと嫌いなのに





何分、何時間眠ったのかも分からないほど、時間を気にせず寝られたのは久しぶりで、数週間の寝不足を一気に解消するような、深い眠りだった。


崇矢さんの肩を借りて寝ていたことも忘れて、目が覚めると隣に崇矢さんが居て、この状況を理解できずにしばらく固まってしまった。




「えっと……」


「おはよ」


「おはよう、ございます」




僕のことを、夢から覚めたプリンセスを見るみたいに愛おしそうな目で見るから、崇矢さんを彼氏と勘違いしそうになる。僕、男なのに。



〝子どもみたいに寝てたな。可愛かった〟


目も合わせられないような恥ずかしいことをさらっと言われて、目を逸らして崇矢さんと少し距離を取ると、凛ちゃんが寝ていたはずのベッドが空になっているのに気づいた。




「…凛ちゃん、」


「点滴終わった。先生も大丈夫って言ってくれたし、今日は帰したよ。光のマネージャーが俺のことも見てくれるって、あの人頼もしいな」


「そうですか…。凛ちゃん、元気になって良かった」


「光も、ありがとな。光が気づいてくれたおかげで、凛も休む時間作れたし」


「いえ、こちらこそ。僕まで休んでしまいましたから」




僕の返した言葉に口角を上げて眉尻を下げる表情を見せてきて、空けた距離をさらに広げる。


危ない。このままだと、ドキドキしてしまう。


こんな優しい表情、僕だけにしか見せてほしくないって、一瞬そんな考えが浮かんで、崇矢さんから目を逸らした。


僕、何を考えてるんだ。寝たはずなのに、疲れが取れなかったのかな。




「凛ちゃんが帰ったのなら、僕のことも起こして欲しかったです」


「起こせるわけないじゃん。俺の肩に頭乗せて、あんな穏やかな顔で眠ってたら」


「それは、ごめんなさい…」


「謝らなくて良いよ。俺の肩が心地良かったんなら、これからもいつでも貸すし。ほら、もうすぐ始まるから。会場戻ろう」




腕をぽすっと軽く叩かれて、立ち上がった崇矢さんに続いて僕も会場に向かった。



会場の入り口に立っていた森下さんを見つけて、〝色々ありがとね〟とだけ伝えると、何も言わずに親指を立ててニコッと笑いかけられる。


機嫌、悪くなくて良かった。



会場の照明が薄暗くなり、本番が始まる。司会もタキシードを着て、達者な口調で進行していく。


ノミネートされた作品のうち、選ばれたのは5作。その中には僕らの作品と、崇矢さんが出演した作品も入っていた。



そして、選ばれたのは作品だけではない。


新人俳優賞、特別賞。僕と崇矢さんの名前が呼ばれた。


思い入れのある作品が選ばれたのは、もちろん嬉しい。でもそれ以上に、個人で表彰されたことが、僕の演技を直接評価してもらえているようで、さらに嬉しかった。




「この度は、このような名誉ある賞を頂けましたこと、大変嬉しく思います」




一旦式典が終わると、崇矢さんとステージに上がり、報道陣による撮影が始まった。


作品チームごとに記念撮影した後、崇矢さんと密着するように指示が。




「密着、ですか…」


「はい。その方が撮りやすいので、お願いします」




それなら仕方ないか。でも、なるべく近づきすぎたくないんだけどな。


救護室で昼寝から起きた時も、あまりの距離の近さに心臓がバクバクしていた。


香水の香りじゃない、服から自然に漂ってきた、柔軟剤の香り。あれは、男でも揺れ動いてしまう。




「光」


「はいっ」



少し離れたところから、腕を伸ばして僕を呼ぶ崇矢さん。肩を組むのか。



言われた通り崇矢さんに近づくと、崇矢さんの方からも近づいてきて、食い気味に肩を寄せられた。ガッチリとした肩に僕の肩が当たり、柔軟剤の香りがふんわりと漂ってくる。


〝良いですねー!〟とテンションを上げる報道陣。



シャッターの音も大きくなり、カメラに目を向けて〝こちらもお願いします〟といういたる所から聞こえる声に応える。




「すごい…」


「眩しいだろ?こういうの、常に浴びれるやつになりたいよな」


「…そうですね」




立ちくらみしそうなほど浴びるシャッターのフラッシュに、崇矢さんの話もいまいちな反応を返した。




解散直前、大御所俳優の〝この後、打ち上げでも行かないか〟という一声でみんながピリついた。


外はおそらく真っ暗。朝のリハーサルから始まり、長時間の式典、写真撮影。


ようやく解放されるという時に、その一声はこの会場に残っていた全員を敵に回した。



きっと、明日早い仕事の人も居る。もしかすると、今から別の仕事が入っている人も居るかも。


誰かが仕方なく断る言い出しっぺが出てくることを祈っていると、大御所俳優のマネージャーが恐る恐る近づいてくる。



「あの、すみません。今からラジオ収録です。打ち上げはまた別の日を段取りますので…」


「何だよ。そんなの断れば良いだろ」


「いえ、そういうわけには…」



ラジオ収録のパーソナリティの名前を出されるや否や、〝悪いね。また予定を合わせて打ち上げをやろう〟とそそくさと出ていった。


どうやら断れない相手だったみたい。


どうにか打ち上げは別の日になり、マネージャーを通して連絡が来ることになった。




_______




「ほんっとうに、ご迷惑をおかけしました!」


「だから気にしないでって。凛ちゃんが元気なら、それだけで十分」




集合場所にした事務所に着いて、凛ちゃんが僕を見つけるなり、深々と頭を下げられた。

勢いがありすぎて、首が取れるかと思った。




「これからは、ちゃんと自分を大事にしてね。しんどい時はしんどいって言うこと」


「…ありがとうございます。でも助けてもらえたのが、光さんで良かったです」


「そう?惚れてくれた?」


「あ、そういう意味じゃないんで」




すぐにマネージャーに復帰してくれて、僕とのいつもの掛け合いのスピードも戻って、安心した。



今日は式典の時に話があった、打ち上げ。


マネージャーを通して予定合わせがあって、今日になった。

途中で抜けたり途中から参加する人も居るみたいだけど、今日は僕は1日オフで、崇矢さんは途中参加。




「じゃあ、行こうか。運転は凛ちゃんがしてくれるの?」


「はい。今日は運転手が捕まらなくて」


「ごめんね。僕が免許持ってたら良かったね」




場所は大御所俳優の別荘。


騒がしさを離れて、俳優だけの空間で楽しみたいという誰の希望か分からない一言で、その場所を借りてバーベキューをすることになった。

さすがにマネージャーだけで準備となると、女の子も多いし可哀想で、僕も下っ端だから準備に同行。



「食べ物の準備はよく分からないから、力仕事は任せてよ」


「大丈夫です。光さんには寛いでてもらうくらい、私が頑張ります」


「それなら僕が行く意味ないじゃん」



穏やかな車内、会話も弾んで凛ちゃんもマネージャーから離れて、最高の笑顔だ。


周りの景色も緑が多くて、癒やされると聞いているし、僕も仕事を忘れて楽しみたい。




もうすぐ都会を抜けて、自然豊かな景色に変わる頃、凛ちゃんに久しぶりに会えて緊張が解けたのか、トイレに行きたくなってきた。



「凛ちゃんごめん、トイレ行きたい」


「トイレ?…あ、そこにありますよ」



大都会とはいえ、1つ交差点を越えれば田舎に変わる境目の街。


道路の端に設けられている簡易駐車場も空いていて、そこに車を停めてもらう。




「ごめん、もう1つお願いが…」


「大丈夫です。近くで待ってますから」




僕は手の施しようがないほどの方向音痴で、来た道を戻れたことがない。


家と事務所しか自分の居場所が分からないので、そこ以外は必ず誰かに居てもらわないと、迷子になってしまう。


凛ちゃんも僕のバカみたいな弱点を知ってくれていて、いつも迷子にならないようにアシストしてくれる。



「いつもありがとね」


「車の近くで待ってたら大丈夫ですか?」


「え、来ないの?」


「犯罪です。早く行ってきてください」




凛ちゃんに方向音痴を知られた時、思いっきり笑ってくれた。〝子ども以上に子どもですね(笑)〟と言われたけど、何とも思わなかった。むしろ、笑ってくれて嬉しい。

引かれるより良いから。


崇矢さんは、僕が方向音痴だと知っているんだろうか。もし知らなくて、僕のこんな姿を見たら、幻滅するかな。笑ってほしいな。



「…何を気にしてんだ」




女の子に対して、方向音痴を知られたくないと思ったことはなかったのに、男の崇矢さんには知られたくないと思うなんて、僕はどうかしてる。


何で崇矢さんには、知られたくないと思うんだろう。



トイレを済ませて手を洗い、鏡を見てヘンテコな表情をしている自分に笑えた。崇矢さんを気にし過ぎだ。



早く行かないと、バーベキューの準備に遅れる。鏡の自分と頷き合って、外に出た。


凛ちゃんを探せば、車に戻れる。キョロキョロと顔を左右に振ると、凛ちゃんの他に男の人が2人居るのが見える。友達か?



「俺たち暇なんだけどさ。もし1人だったら、一緒に遊ばない?」


「ごめんなさい。人を待ってるので」


「じゃあその人が来るまで、お話しようよ」


「お話…」



凛ちゃんの警戒する目と男の人の目つきで、友達じゃないとすぐに分かった。


やっぱり凛ちゃんって、可愛いんだな。俺には分からないけど、声をかけられるってことはそういうことだもんな。


…いやいや、そうじゃなくて。止めないと!凛ちゃんを助けないと。



駆け足で凛ちゃんの隣に立ち、肩に手を回して凛ちゃんに少しだけ体重をかけた。よろける凛ちゃんは、目を見開いて僕を見ている。



「この子、僕のだから。ごめんね?」



僕が奥永 光だと気づかれてはないようで、男の人たちは僕と凛ちゃんを交互に見ると、〝1人だと思ったから…、ごめんね。〟と素直に引き下がった。



「ありがとうございます…。光さんに助けてもらってばかりですね」


「気にしないで。僕がトイレ行ってる間にナンパされるなんて、凛ちゃんモテモテだね」


「今のは、そんなんじゃないと思います。何か、尻軽女に見られてる気がしました」


「尻軽女…(笑)ワードセンス、良いね」


「笑い事じゃないんですけど!」



怒りながらも笑ってくれたし、ごめんねと言ったら〝早く行きましょ?〟とナンパのことを全く気にしていない素振りで車に乗った。



車が出ると、すぐに高速に乗り、景色も一気に田舎に近づいた。


そこから別荘に到着するまで、そう時間もかからず、目的地に到着するもまだ誰も居なかった。




「先に準備始めてようか。その方が、早く打ち上げ始められるでしょ」


「そうですね。じゃあやっちゃいましょう」




ハイエースに積んでいた荷物を全部出し、机と椅子の組み立て、お皿やコップ、箸の設置。

バーベキューに必要なものは、一応全部用意した。



途中、他のマネージャーも合流し、炭や網の用意、野菜や肉の準備を分担して行う。



僕は野菜の切り方とかがよく分からないし、炭の用意をすることに。



「私も手伝います」



凛ちゃんも一緒に炭の用意をし出すと、凛ちゃんがやけに僕を見ている気がして、炭を火が移りやすい組み方にしてから凛ちゃんに視線を移す。


やっぱり僕を見ていて、何だかニヤニヤしている。




「そっちもやろうか?」


「いえ、大丈夫です。出来ますから」


「ふーん…。じゃあ何?何か言いたいこと、あるの?」



僕がした質問に答えず、〝ふふっ〟とだけ笑い、またじっと見つめるだけ。



「何!?言ってよ」


「…この子、僕のだから。…ふふっ」



それか。あの時は、凛ちゃんを守ろうとして咄嗟に出た言葉だったけど、今考えればクサイ言葉だったな。

僕のだからって、所有物みたいな言い方。笑っているけど、どういう感情で言ってるんだ。




「あぁ、そのこと…。それ、誰にも言わないでね?僕と凛ちゃんだけの秘密だから」


「何でですか?良いじゃないですか!光さんの印象、爆上がりしますよ!」


「そういうの、いらないから」




喜んでいるみたいだけど、僕にとっては女の子の見る目が変わったところで何の興味もないこと。


芸能人って、こういう何気ない行動で印象を上げていくものなんだろうけど、目に見えて分かる、僕に対するみんなの感情の変化を感じ取るのが、苦手。


嬉しいより先に気持ち悪いが来てしまう。




「…分かりました。秘密、ですね」


「うん、よろしく」




目の前の炭に視線を戻して、また組み立てる。


あとは火を付けたら肉を焼くだけ。それは全員が集まってからじゃないと。



材料を準備してくれている子たちは、まだ終わっていないようで、やることがなくなった僕と凛ちゃんは、たくさん置いている椅子の端に腰掛けた。



クーラーボックスを開けると、缶ビールやペットボトルの飲み物が大量に冷やされている。




「すみません。これ、飲んでも良いっすか?」


「1本だけなら良いですよ!」


「あざっす」



キャッキャと、多分恋バナで盛り上がっているマネージャーたちに一声かけて、凛ちゃんの分のオレンジジュース1本と、僕はお茶を手に取る。



「凛ちゃん、飲む?」


「え、フライングはさすがに…」


「大丈夫。まだ誰も来ないよ」




凛ちゃんは運転手だし、僕は未成年だし。お酒の席、なんてそんなこと言えないけど、ペットボトルをカツンと鳴らして喉を潤わせた。




「…うまぁ」


「頑張った後の飲み物は、沁みますね」


「ほんと」



いつもなら、ここでどちらからともなく話し出して、何でもない話題で盛り上がるのに、さっき僕が突き放すような言い方をしたことを気にしているのか、凛ちゃんからアクションがない。




「あのさ、凛ちゃん」


「何ですか?」


「さっきのことなんだけど…。ごめん、ちょっと嫌な言い方しちゃった。みんなの僕に対する見方が変わるの、苦手で」


「印象を良くしたいって思わないってことですか?」


「うん…。凛ちゃんには思ったことはないけど、気持ち悪いって思っちゃうんだよね」




〝気持ち悪い〟を聞いた途端、相槌をやめて、僕をじっと見つめる凛ちゃん。


引かれたか。そりゃそうだよな。


芸能人やってて、女の子たちの好意を気持ち悪いって思うなんて、失礼すぎる話だ。



これからは、マネージャーは森下さんメインになるだろうけど、仕方ない。凛ちゃんも崇矢さんのマネージャーで忙しいだろうし。



頭の中で、凛ちゃんに打ち明けたことを半分後悔しながら、本音を言えたことに半分満足している自分もいる。




「それ…。崇矢さんも同じこと言ってました」


「え?」




予想外の返事がきて、拍子抜け。

そこは、凛ちゃんが僕を突き放すところじゃないの?



しかも、崇矢さんもって。


崇矢さんも、女の子に対して気持ち悪いって思ってるってこと?




「同じことって」


「あの人も、女の人に好意を持ったことないって言ってました。俺には推しが居るからって」


「推し…」




〝可愛いでしょ?俺の推し〟


…僕のこと!?


思わず声が出そうになり、慌てて口元を手で押さえる。




「…ふふっ。光さん、今さら気づきました?」


「え、凛ちゃん知ってたの!?」


「だって崇矢さん、私が嫌になるくらい光さんのこと聞いてくるんですもん。私が光さんのマネージャーになったって言った時なんて、鎮めるの大変だったんですから…」



そんなこと、ある?近くに居るとドキドキさせてくる人が、僕のことを推してくれていて、その人がもうすぐやってくる。




「あ、でも…。もしかして、こういうのも、嫌でした?性別、関係ないですよね」


「いや。崇矢さんは、別っていうか…。仕事のやり方は嫌いなんだけど、プライベートの時の崇矢さんは、不思議と目で追っちゃうっていうか…」


「〝好き〟なんですね」




好き!?そんなわけない。僕にそんな感情はないはずだ。それに、あのニワトリ首だけは許せないし。



「相手は男の人だよ?男が男を好きになるって、おかしくない?」


「好きになる相手に、おかしいなんてないですよ。光さんは、崇矢さんのどういうところが好きなんですか?」



崇矢さんが近くに居るだけでソワソワして、話しかけられると心が落ち着いて、離れるといつでも崇矢さんを探している。


これが好きってこと?恋ってこと?凛ちゃんがしてきた質問も、答えられない。好きって自覚もないし、どこがって言われても困る。




「そんなの、分かんない」


「答えられないか。無理もないですよね。でもいつか分かったら、教えてください」


「うん、そうする」




僕は崇矢さんが好きなのか、分からない。でも、凛ちゃんにそう言われたんならそうなのかも。


誰かを好きになったことがない僕に、答えはやって来ない気がして、椅子に腰掛けたまま首を反らせて空を見ると、太陽がてっぺんまで近づいていて、直射日光が目に入ってきた。



眩しくて足元の芝生に目をやると、材料の準備を終えたマネージャーたちがこちらにやってきていた。

それと同時に、俳優陣も別荘に到着。一気に騒がしくなって、僕と凛ちゃんの会話も自然消滅した。



「準備万端じゃないですか!乾杯しましょ!」



大御所俳優に可愛がられている中堅女優である、僕が出た作品の主演が何故か仕切り出し、宴会は始まった。


どの俳優にもべたべた引っ付いていて、僕は標的にならないように凛ちゃんの隣に滑り込む。



乾杯が早々に終わると、次は焼く準備。マネージャーたちは持ち場に散って、炭に火を付け始める。


凛ちゃんも近くにあった焼き台に火を付け始めたので、僕も隣に。



「光さんは、お話ししててください。準備まで手伝ってもらったのに」


「べたべたしてる人の標的になりたくないんだよね…。だからやらせて?」




軽く視線だけを送り、すぐに凛ちゃんに視線を戻すと、呆れたような表情で苦笑いをする凛ちゃん。




「じゃあ、火を付けてもらっても良いですか?」


「喜んで」



凛ちゃんが持っていた着火剤を受け取り、炭に火がついたところで、うちわで火を広げる。



「野菜と肉、ここに置きますね」


「ありがと」



赤くなった炭から時々出る火花を見つめながら、崇矢さんのことを考える。


好きな人のことを考えるだけで胸が締め付けられるとか、何気ない一言にキュンとするとか、よく聞く言葉を頭に並べて崇矢さんに置き換えてみたけど、胸は締め付けられないし、キュンもない。


やっぱり好きじゃないのかな。




「光さん、お肉焼きましょう。もう良さそうですよ」


「うん、そうだね」



網で蓋をして野菜と肉を置くと、ジューッとお腹が減る音を立てる。


時々焼き加減を見ながら、また崇矢さんのことを考えていると、凛ちゃんが肘で僕の脇腹を突いてきた。




「何?もう焼けた?」


「光さん、ずっとぼーっとしてます。恋する乙女みたい」


「ちょっと!ボリューム下げて!」




僕を笑って冗談を言われ、聞かれたくないことだったので、凛ちゃんの服の袖を引っ張ってみんなから遠ざける。




「さっき凛ちゃんにした話、絶対誰にも言わないで」


「分かってます。でも気づかれないように、光さん自身が気をつけてくださいね」




さすが凛ちゃん。勘付かれないようにしなきゃ。


焼けた肉を渡すと、凛ちゃんがみんなが居る机に運んでくれて、一気に盛り上がるとお酒も進んだようで、マネージャーと僕は食べる暇もなく網が真っ黒になるまで焼き続けた。



もう半分以上材料もなくなって、お酒も残り少なくなってきても、途中参加予定の崇矢さんが来ることはなく、酔っ払って寝てしまったり、仕事で抜けていく人も居て、宴会はお開き状態。




「光さん、ずっと焼いてもらってたので、代わります。私が焼くので、座って食べてください」


「それは他の子たちも同じでしょ?もう網から直接食べても良いんじゃない?誰も居ないし」




机には誰も居らず、散乱した空き缶と汚れたお皿。庭の隅では、自分たちの分の肉と野菜を焼くマネージャーたち。


誰も片付けようとしないところが、芸能人らしいっていうか。


放っておけば、マネージャーが片付けてくれるって思ってるだらしなさが見えて、モヤッとする。




「凛ちゃん、これ焼いたから食べてな。僕、ここ片付ける」


「私がやりますから!」


「ううん、良い。気になっちゃって食べれない。良いから食べな」





散乱したゴミを片付けようと集まるマネージャーたちを追い払って、1人黙々と机の上を綺麗にしていく。


中途半端に飲み物が残ったコップもたくさんあって、1つのコップに飲みかけを集め、あっという間にゴミ袋が満杯に。



何だか、楽しんだというより、楽しませていた側になってしまった。

まだ成人していないし、お酒も飲めないから宴会といってもただの食事会に参加してるようなものだし、下っ端は楽しもうと思っても無理なんだなと、妙に冷静になり寂しくなった。


落ち込んだ気持ちのまま、所々机に溢れたタレや飲み物を布巾で拭き取っていると、庭の向こう側がほんの少し騒がしくなる。



「誰か吐いたかな…」



残飯処理に吐物清掃。僕は雇われの清掃員だろうか。外での騒ぎは、自分たちでおさめてほしい。




「はぁ…。疲れる」



これが終わったら、思う存分肉を食べよう。どうせ外で騒がしくしているし、もう誰も食べないだろうと考えていると、誰かに突然肩を組まれた。


酔っ払いに絡まれるのは困る。先輩でも、遠慮なく跳ね除けさせてもらおうと、怠さを顔に出して横目で確認する。



「え、崇矢さん!」


「マネージャーやってんの?俺も手伝うよ」



肩を組んできたのは、途中参加の崇矢さんだった。僕の残飯処理を後ろから見ていて、本物のマネージャーだと思ったらしい。


嫌な顔せずに手伝ってくれて、捨てるものか残すものか、僕をマネージャーと呼んで聞いてくる。



「マネージャーじゃないですって(笑)一応俳優なんです!」



上司ばかりの宴会は苦痛だったけど、崇矢さんが来てくれた途端、僕の心のモヤが一気に晴れて、気分も浮ついた。


自分で思っている以上に崇矢さんが来てくれたことが嬉しかったようで、肉を頬張る凛ちゃんと目が合うと、満面の笑みでグッドサインをもらい、僕の頬も緩んだ。