バンッと箸を叩くようにテーブルに置くと、そのまま部屋から出て行ってしまった。
 啞然とする結羅と茜。しかし伊織は気にせずに食事を続ける。

「……いいのでしょうか? 怒っているようでしたが」
「放っておけ。アイツもいい大人だ。自分のことは自分でどうにかするだろう」

 心配する結羅と違って、伊織は冷たくそう言ってくる。結羅は梨々子の行動がどうしても気になった。
 何故かよく分からないけど、彼女の行動は止めた方がいいような気がする。
 
 その夜。結羅は眠りにつこうとしたが、伊織の言葉や過去のことを考えていたら眠れずに居た。伊織の過去は思ったよりも酷かった。
 結羅自身も両親から妹の茜と比べられてきた。冷たい環境で育ったから、伊織の気持ちは分かるはずだったのだが。
 後から考えると、それ以上に彼の方が辛いはずだろう。
 チラッと隣りを見ると茜がスヤスヤと眠っている。虎太郎も茜に近くで丸くなって寝言を呟いていた。

(私には茜と虎太郎が居てくれたけど、彼は……)

 伊織の人間不信からして、誰かに支えてもらったことがないように思えた。
 匠は青龍。主には忠実だが、それ以上の関係を築けているのだろうか?
 そんなことを考えていると、静かだったはずの屋敷から悲鳴が聞こえてきた。

(この声は、梨々子さん!?)

 結羅は慌てて部屋から出ると騒ぎに駆け付けた使用人達は、離れの渡り廊下に居るのが見えた。

『一体どうしたんだ?』
「分からないわ。とりあえず行ってみましょう」

 虎太郎が騒ぎで起きてしまった。結羅は、とりあえず急いで離れの部屋に入っていく。そうしたら衝撃的な光景が目に入る。