「まったく、お義兄様ったら。相変わらず強情ですわね。そして可哀想な人。でも、龍崎家の宿命には逃れません。無理なら、既成事実を作るまでですわ」
「えっ?」

 彼女の言葉に思わず振り向く結羅。そうしたら梨々子はクスッと笑っていた。

「あなたみたいな人では伊織お義兄様の妻に相応しくありません。いかに私が支えることが出来て、相応しいか見せて差し上げますわ」

 それでも勝ち誇った顔を崩さない梨々子。まるで自分の思い通りになることが分かっているかのように。

(嫌な気配がする。それに可哀想な人って、どういうこと?)

 梨々子の周りには黒色の霊力が覆い被さるように見える。それが、とてつもなくゾクッとして恐怖に思えた。黒色の数珠のせいだろうか?

 その後。結局、結羅は伊織を追いかけることが出来なかった。
 納得がいかない茜は匠に事情を説明しろと言い寄る。

「あの妙な自信は何なの!? それに、あの女は兄の婚約者だったんでしょう? だったら、何で婚約者を入れ替える必要があるのよ? 兄はどうしたの? そもそもおかしくない?」

匠は話すかどうか迷っていたが、茜に迫力に負けて頭をかいていた。

「うるさいから、落ち着けって。そもそもこの家は、複雑な家庭なんだ」
「複雑な家庭って、どういうことですか?」

 それには結羅も気になった。思わず食いついてしまうほどに。

「……本当は言いたくないのだが。主は元々、前の主と愛人の間で産まれた子供だ」
「愛人の子供!?」

 思わない事実にショックを受ける。つまりは伊織の父親は妻の他に、外で愛人を作り、その子供が彼ってことになる。