梨々子は、結羅と伊織の契約結婚のことを既に知っているようだった。しかも、結羅が白虎の後継者のことまで。
 険しい顔をする伊織と違い、梨々子は勝ち誇った顔をしている。

「そんなのどうでもいいでしょう。そんな結婚は無効なものですわ。この方と離婚した際には私が再婚相手として参ります」
「勝手なことを言うな!?」

 さすがに伊織は腹を立て、怒鳴りつけた。

「もう……伊織お義兄様ったら、急に怒鳴らないで下さいませ。驚きましたわ。これは龍崎家だけではなく、上層部との話し合いでも納得頂いています。次の後継ぎ問題もありますし」
「上層部だと? 俺は、そんなことは聞いていないぞ!?」
「だって、お義兄様に言っても反対するだけですし。前から私とは婚約変更の話は出ていたのに、まともに話を聞いていただけませんでした。だから、強制的に結ぶ形に。それに私と結婚した方が、龍崎家の血をより濃くなりますわ。次の後継者を産むことも可能でしょう」

 どうやら伊織の許可を取らずに勝手に話を進める気だ。
 確かに半分でも龍崎家の血をひいている梨々子と結婚すれば、青龍の後継者が産まれる確率は上がるだろう。イトコだから法律は問題ない。
 しかし、そうなると結羅とは離婚しないといけない。契約結婚だから、どのみち解消しないといけないことだが。
 その言葉を聞いた結羅はズキッと胸が痛む思いがした。
 だが、それに対して納得していないのは伊織だった。眉間にシワを寄せて、梨々子を睨みつける。

「俺は納得していない。それに契約結婚だとしても、そうではなくても、俺にはどうでもいい。嫁なんて必要ない」

 それだけ言うと、客間から出て行ってしまった。結羅は慌てて追いかけようとするが、梨々子はため息を吐いた。