「何なの!? あの傲慢そうな女は。いいわけ? 勝手に上がらせて」

 顔を真っ赤にさせて怒る茜だったが、匠も梨々子の腕に黒色の数珠があることに気づいた。

(これは……ただ事ではないな。主に伝えておかないと)

 匠は心の中で警戒をしながら、もう1人の分身に報告することにする。
 伊織が帰宅したのは、それから1時間後だった。

 伊織は帰宅すると早々に客間に居る梨々子のところに向かう。そうしたら梨々子は自分に会いに来てくれたのかと思って喜びながら抱きついてきた。

「お久しぶりです~伊織お義兄様。私のために急いで帰ってきて下さって、嬉しいですわ」
「……何しに来た?」
「いやですわ~伊織お義兄様ったら。私はイトコなのですから。本家である、こちらに来るのはおかしくないでしょう? それにご結婚されたと聞いたので、ご挨拶に」
「……噓を言うな。それだけではないだろう? お前の父親に何を命令されて来た?」

 ニコニコしながらバタバタする梨々子と違い、伊織は冷たく言い返す。
 そうしたら梨々子はフフッと笑ってくる。

「お父様からは、私の婚約変更を正式に発表したいと、おっしゃっていましたわ。私と伊織お義兄様との婚約。もちろん私は賛成ですわ」

 その言葉に後ろで聞いていた結羅は衝撃を受ける。梨々子は伊織との婚約を望んでいると。しかも発表まで。

「バカなことを言うな!? 俺は最近、結婚したばかりだぞ」
「……それは、契約結婚でしょ? 私は知っていますの。お義兄様は、その女の持つ白虎の能力が欲しくて結婚に踏み切ったことを」
「……何処で知った!? そのことを」