数日後。夕方頃に龍崎家に1人の訪問者が来る。
　 結羅は丁度夕食の準備をしていた最中だった。近くに茜と匠も居た。
　ここからだと玄関の様子は見えない。しかし使用人がバタバタと出迎えるので、身分の高い方なのだろう。声からして女性のようだが。

「誰が来たみたいだけど、出迎えた方がいいのかしら？」

　龍崎家の妻として出迎えた方がいいのかと悩んでいると、匠が舌打ちをする。

「余計な客が来たな」
「誰が来たの？」

　茜は結羅が作った、だし巻き卵をつまみながら聞いてくる。そうしたら板前が、ため息交じり、
「あれは、梨々子お嬢様だろう」と、教えてくれた。
「梨々子お嬢様？」
「龍崎梨々子（りゅうざき　りりこ）。年は２４。主の父方の妹の一人娘。父親は婿養子だが、ウチの会社の重役だ。あと以前は主の兄の婚約者でもあった」

　聞き返す茜に匠は、詳しく答えてくれた。つまりは伊織のイトコということになる。
　しかも兄の婚約者とは凄いことだろう

「あれ？　あの人って、お兄さんが居たんだ？」

　茜が不思議そうに言ってくる。確かに兄が居るとは聞いたことはなかった。
　匠は余計なことは答えず。
　しかし、そうなると無視するわけにはいかない。一応妻として挨拶だけはしておいた方がいいだろう。
　結羅はエプロンを外すと、玄関まで出迎えに向かった。
　梨々子という女性は、とても綺麗な人だった。黒髪のウエーブロングヘア。ぱっちりした二重目。色白の肌に、花柄のワンピースがよく似合っている。