周りは虎太郎の姿は見えないので、麻美が1人で転んでしまったように見えるだろう。しかし、これはチャンスだ。
 結羅は急いでクラスの中に入っていくと、お札を出して除霊を始める。

「臨兵闘者皆陳裂在前。悪しき呪詛を封印せよ」

 お札を麻美の背中に貼り付けると、そのまま彼女を気絶させる。
 その後は、どうなったのかと騒ぎになったが、麻美はそのまま救急車で運ばれる。警察まで来てしまい、落ち着くまで自宅待機になった。
 学校は保護者に説明をするが、そのことで結羅と茜の母親の耳に入ってしまった。
 さすがに優秀だと評判だった茜が被害に巻き込まれことに母親は激怒。学校までなると、茜を連れて帰ると言い出した。

「お母さん。茜は私がちゃんと面倒みているから」
「面倒みて、何でこんな騒ぎになるのよ? 本当にあんたが一緒だと、この子に悪影響になるわ。この子は連れて帰るから」

 母親は一歩も引かない。いつもなら茜も帰りたくないと反論するところだ。
 しかし、今回の事件は茜にとって、ダメージが多かった。自分のせいで姉まで迷惑をかけてしまったことが心苦しい。
 姉と虎太郎が居なかったから、どうなっていたか分らない。もしかしたら自分にも危険が及んだかもしれない。彩友美も危ない目にあったのに。
 そう考えると茜は(戻った方がいいのでは?)と、思ってしまう。

「ほら、茜ちゃん。行くわよ」

 そう言って、母親が茜の腕を掴む。拒みたいのに、それを振り合える力が出ない。

「茜!?」

 結羅が慌てて名前を呼ぶが、茜は辛そうな表情で目をつぶる。その時だった。

「おい、茜。お前はそれで本当にいいのか?」

 そう言って、諦めかけた茜を止めたのは匠だった。しかも呼び捨てで。