「さっさと、彼女にお金を返すことね」

　そう言うと、茜は財布を拾って岡本莉子に渡した。そして、そのまま立ち去っていく。それを聞いた麻美は歯を食いしばっていた。

「何なのよ……アイツ。自分だけ、いい子ぶって。絶対に痛い目を見させてやる」

　麻美の中のオーラが、さらに黒色に色濃く染まっていく。そして憎悪の感情の激しさが増すのだった。

　麻美の逆鱗に触れた茜は翌日、学校に行くと玄関そばで教育指導の教師に呼び止められる。そして、そのまま生活指導室に連れて行かれた。
　何の用かと思っていたら、茜が岡本莉子をイジメていたという濡れ衣を着せられた。

「はっ？　私、そんなことはしていません」

　冗談ではない。茜は思わない言いがかりに腹を立てる。しかし担任と生活指導員の教師は困った表情をしている。

「しかしだな、岡本さん本人が今朝早くに言ってきたんだ。白石さんにイジメられて辛いと」
「何で、彼女がそんなことを！？」

　思わない名前に驚いてしまう茜。イジメいたのは麻美達だ。
　それなのに、どうして自分がされたことになるのだろうか？　そもそも彼女は内気で大人しい性格だ。自分の意で、そんなことを言うとは思えない。
　茜はハッとする。麻美に罪を擦り付けた可能性が高い。

「岡本さんをイジメていたのは狩野さん達です。昨日もカツアゲをしていました」

　しかし担任が笑う。

「狩野さんが？　それはいくらなんでも、無理があるだろう。狩野さんは、社長令嬢だぞ？　それに性格だって、か弱くてお淑やかだし」

　どうやら表の顔しか知らない教師達は、茜の言葉を信用していないようだった。
　今まで麻美は教師の前だけ健気に演じ切っていた。聞き分けもよく、率先して手伝いとかするぐらいに。もちろん、その手伝いは後でよその子にやらせていたが。