それは、まだ茜が母親のお腹に居た頃。

『わぁ~赤ちゃん動いた!?』
『フフッ……赤ちゃん早くお姉ちゃんに会いたいって。産まれてきたら、可愛がってあげてね?』
『うん。たくさんご本読んであげて、守ってあげるの』
『お~それは頼もしいお姉ちゃんだな』
『えぇ、本当ね。結羅が優しいお姉ちゃんで、お母さんも嬉しいわ』

 そう言いながら、父親は結羅の頭を撫でてくれた。母親も優しい声で微笑んでくれる。それが当たり前のように続くと思っていた。
 それなのに、茜を出産した後の母親は一切、結羅に微笑むことはなかった。幼い子供の育児に大変だから余裕がないのかと思ったが、そうではなかった。
 父親もいつもイライラしていて家族に当たるようになって、家庭は少しずつ歪んでいく。その後ろには黒い邪悪な霊力が潜んでいた。
 そこで始めて、両親に呪詛がかけられたことを知る。そのぐらいの頃だ。
 虎太郎が結羅の目の前に現れたのは。次の後継者として選ばれたのは結羅だった。


「お姉ちゃん。大丈夫? ボーとして」

 茜の声で現実世界に連れ戻される。ハッと結羅は我に返った。

「えぇ、大丈夫よ。少し霊力を使ったから疲れたみたい」
「本当に大丈夫? 今日は早めに寝た方がいいんじゃない?」
「そうね……そうしようかしら」

 何とか苦笑いして誤魔化す結羅。本当は昔のことを思い出していたとは、口を開けて言えなかった。
 茜に余計な心配はさせたくない。とにかくいらない心配はさせずに、別の方法で解き方を見つけないといけないだろう。