無事だったから良かったものの、取り返しのつかないことになっていたかもしれない。
 結羅の心は罪悪感でいっぱいになる。しかし、それに反論したのは茜だった。

「ちょっと、信じられない。既婚者と言っても、期限付き。そんな状況で結婚していますと言えると思っているの?」
「……何が言いたい?」
「大体、契約結婚なんだからお姉ちゃんがどうしようが、お姉ちゃんの勝手じゃん。それに婚約指輪どころか結婚指輪すら贈らない男が偉そうに言わないでよ! 悔しかったら結婚指輪ぐらい贈ってみなさいよ。情けないわね」

 はっきりした口調で言い返す茜。結羅はその言葉に驚く。
 妹の口から結婚指輪のことが出るとは思わなかったからだ。結羅は、そんなことは期待してしない。契約結婚なのだから無いのは当然だと思っている。
 それを聞いた虎太郎は『良く言った。茜』と、褒めていた。

「ちょっと、茜!?」

 オロオロしながらチラッと伊織を見る結羅。彼は無言の黙ってしまった。怒ってしまったのだろうか?
 そうしたら伊織は匠に近くのジュエリーショップに行くようにと指示を出した。
 まさか本気にしたのだろうか?
 匠は本当にジュエリーショップにまで車で走らせる。伊織は着くと、何も言わずに車から降りて店内に入ってしまう。
 結羅は戸惑いながら、やはり止めようと慌てて車から降りる。
 しかし、その前に伊織が店内から出てきてしまった。

「あの……指輪は」
「サイズが分からないから君も来い」
「えっ?」

 伊織は結羅の腕を掴むと強引に中に連れて行く。そして一番高い指輪を選ぶとサイズを測るようにと店員に指示を出した。