(えっ? これって、どういうこと?)

 まるで監視をされているみたいだ。黒色のスーツ姿の男性は強面の顔をしている。
 ヤクザの人で間違いないだろう。
 戸惑っていると店員が声をかけてくる。

「まだお時間がありますが、どうかなさいましたか?」 
「あ、あの……」

 事情を話そうと思ったが監視をされている状態だ。この店員も、にこやかに言っているが、微かに呪詛の気配がする。
 下手なことを言えば、何をされるか分かったものではない。

「あの……トイレはどちらに?」
「あ~下にあります。階段を降りてから右側に」
「ありがとうございます」

 とりあえず結羅はトイレに逃げ込むことにする。そのまま部屋に戻るには危険だと感じたからだ。
 監視の目があるので、安全を確認してから逃げる方がいいだろうと判断する。
 急いで階段を降りて行く。やはり黒色のスーツ姿の男性達も追いかけるように降りてきた。そのまま女子トイレに逃げ込んだ。
 個室に入ると、急いで鍵をかける。これで入ってこられないはずだ。
 便座に座ると、はぁ~と深いため息を吐く結羅。
 樹を部屋に残したままになってしまった。あの状況では一緒に行くかとは言えなかったので、仕方がないことだが。

『まったく。困ったことになったな』

 虎太郎も呆れていた。このまま逃げるにしても、どうするかだ。
 悩んでいると、誰かが女子トイレに入ってきた。ビクッと震えながら耳を傾けると、美香の声が聞こえた。