歌うのも苦手だったので、数えるほど行ったことはない。

「へぇー今時珍しいね? 髪も長くて女性らしいよね。綺麗だし」

 そう言いながら、結羅の髪を勝手に触れてくる。
 驚き過ぎて助けを呼ぼうと、樹を見るが数人の女性達に囲まれていた。

「やめろって。そんなに近づくな!?」
「えっ~照れている。可愛い~」
「ねぇ~彼女居ないのって、本当? 私、立候補しちゃおうかな」

 そう言いながら腕に絡まされたりして、身動きがとれない様子。頬が赤くなっており、動揺をしていた。
 これでは頼るのは難しいだろう。そうしたら逆に座っていた男性まで結羅に近づいてきた。その人からも呪詛の気配がする。

「ねぇねぇ、せっかくならメッセージアプリのID教えてよ。交換しよう」
「それは……ちょっと」

 何とか断わろうとする。合コンは初めてだが、こんなに距離が近いものだろうか?
 虎太郎は『触るな』と、怒ってくれるが聞こえるわけがない。
 そうしたら彼氏との距離が近いと感じた美香は、隼人にしがみつく。

「ちょっと、彼は私の彼氏よ!? ちょっと馴れ馴れしいんじゃないの?」
「こら、美香。結羅ちゃんに失礼だぞ?」
「だって」
「美香。お前、ウザい」

 そう言うと、隼人はギロッと美香を睨みつけて腕を振り払ってしまった。ショックを受けた美香の肩は小刻みに震えていた。

「あの……ちょっと電話があったみたい」

 これはまずいと思った結羅は慌てて立ち上がると、カバンを持って部屋から出ていく。気まずくて、あの場にはいられない。
 このまま外に出るべきかと思って、辺りを見る。そうしたら黒色のスーツ姿とサングラスをつけた男性達が、こちらを見ていた。