母親は結羅に向かって、それだけ言うと仕事に行ってしまった。父親も同じく。
　取り残されたのは結羅と茜の２人だけ。虎太郎は、ずっと宙に浮いた状態で家族の光景を見ていた。
　そうしたら茜は玄関のドアに向かって、べーと舌を出した。

「一生帰って来なくてもいいつっーの」

　さっきまでの態度と違って、両親に不愉快な態度を見せていた。結羅は立ち上がるとスカートのほこりを払った。

「茜、ありがとう。機転を利かしてしてくれて。お陰で助かったわ」

　結羅が、お礼を言うと茜が抱きついてくる。

「ただいま～お姉ちゃん」

　結羅にとったら、茜は可愛い妹だ。さっきも機転を利かして、話を逸らしてくれたから以上は怒鳴られることなかった。
　逆に茜が怒ると「妹に何を吹き込んだ！？」と余計にややこしくなる。それぐらい両親にとって結羅に対する扱いは酷かった。

「さあ、ご飯にしましよう。今日はバイトで遅くなってしまったからインスタントラーメンでもいい？　その代わりチャーハンは作るから」
「そう思って、帰りに図書館に寄ってきたから大丈夫。チャーハンは大盛りね？　お姉ちゃんの作るチャーハンは美味しいから好き～」
「フフッ、そう？　じゃあ、今から作るから、着替えてらっしゃい」
「は～い」

　茜は大喜びしながら靴を脱いだ。

『茜。義替えの前に、手洗いを忘れるなよ』
「分かっているわよ。もう、虎太郎うるさい」
『こら。うるさいとは、なんだ！？』

　虎太郎と口喧嘩をしながら脱衣所に向かう茜を見ながら、結羅はクスクスと笑った。