その時、匠は茜が勉強している本に目が留まる。高校の受験勉強の他にも医学に関する勉強をしていたからだ。

「……お前、医者になりたいのか?」

 茜は隙をついて腕を振りほどくと、再び椅子に座った。

「そうよ、私は医者になりたいの。精神科の専門で」
「……何故そこまで頑張る? 女なのに」

 匠にとっては、それは不思議なことだった。学業の他に図書館まで来て頑張る意味が分からなかった。

「今時、女なのにとか時代遅れよ。私は霊力が偏っているから、幼い頃からオーラが見えることで苦労してきたわ。上手くコントロールが出来なくて、よく体調を崩して病院にも通ったし。そこで凄く綺麗な女医さんが居て」


 茜は幼い頃のことを思い出した。
 生まれつき霊力だけではなく、人の感情が見えることが出来ていた。しかも幼いためコントロールが上手く出来ず、常に人の感情に流されそうになる。
人間の負の感情、嫉妬、悪意。いろんな色が混ざり合って気持ちが悪い。それに恐怖と常に霊力が減ってお腹が空く。
保育園や小学校で倒れることもよくあった。
あの時も。小学生2年生の頃だっただろうか。学校で体調を崩して、保険の先生に病院に連れて行ってもらった。
診察室の外で泣きながら家族に迎えに来てくれるのを待っていた。ずっとオーラが見え過ぎて、心細くなっていた時だった。一人の女医が声をかけてきた。

「あら、可愛らしい子が泣いているわね。大丈夫?」

 その女医を見た時は息を吞んだ。赤色の茶髪が印象的だったからだ。
 赤色の髪を後ろに一つに結んでも、腰まである長い髪は鮮やかになびく。背がスラッと高くて、白衣が似合っていた。そしてキリッとしたつり目の美人。