「……それって」

 樹は余計に複雑そうな表情になっていく。上手く言葉が出てこない。
 安全性と言われたら、何も言えなくなる。自分に力があるわけでもないので、守る手段が他にないからだ。
 いくら結羅には強い霊力を持っていて除霊は出来るが、か弱い女性。虎太郎という白虎の神獣が宿っているとはいえ、1人で戦えるには限界あることは樹も分かっている。だから悔しいのだ。
 自分がどれだけ役立たずか、身に染みて分かってしまう。

「本当に……それでいいのか? 契約結婚だぞ? 結婚したことに後悔するかもしれないぞ? 相手はお前に好意があるわけではないのに」

 聞いた話だけだと、その伊織の目的は、あくまでも自分の身を守る手段として、結羅との結婚を提案したと感じた樹。そこには恋愛感情はない。
 期限までにある結婚に幸せがあるとは思えない。

「うん……私は大丈夫。それに利用しているのは私も同じ。お互い様でしょ?」

 結羅は、そう言って微笑んでみせた。お互いに利用価値があったから結婚した。
 それ以上でもそれ以下でもない。無駄な期待は最初から諦めていた。
 樹は目を大きく見開いて驚いた表情をしていた。

(ごめんね。樹……今の私は、それしか出来ないから)

 結羅にとって今大事にしないといけないものは茜だ。それは、これからも変わらないだろう。なにより後継者としての責任がある。
 そのために、今やるべきことをやるだけだ。

その後。大学の講義が終わると、結羅はそのまま白石神社に向かった。祖母と叔母に結婚のことを話さないといけない。
白石神社は、大学から近い距離にある。神社の隣りが祖母達の住んでいる家がある。