「ここでは人の目もあるから話しにくい。カフェで、ちゃんと一から説明しろ」
「えっ? でも、講義は?」
「そんなことを気にしている場合か!? 俺にとっても一大事なんだ」

 それだけ言うと、結羅を大学近くにあるカフェまで無理やり連れ込んだ。講義が始まる時間帯なので空いている。お互いにアイスコーヒーを頼む。
 樹はすぐに「どういうことが、ちゃんと説明しろ!?」と必死に問い詰めてくる。
 結羅は戸惑いながらも一から説明する。伊織に助けてもらったことから、今自分が起きていること。そして契約結婚のことまで。
 話し終わる頃には樹はショックで言葉を失っていた。

(マジかよ……俺に霊力がないばかりに。そのために政略結婚って。冗談じゃない。俺はずっと結羅のことが好きだったのに)

 樹は幼い頃から結羅が好意を持っていた。しかし奥手で振られて関係が壊れるのが嫌で一度も告白が出来ないまま。
 それが、こんな形で奪われるとは考えてもいなかった。

「樹。大丈夫? 顔色が悪いけど」

 結羅は心配そうに言うと、樹はドンッと勢いのままテーブルを叩いて立ち上がってくる。

「やっぱり、そんな結婚はおかしい。まだ大学1年生相手にだぞ? ロリコンかよ……そいつ。利用されているだけだろ!? さっさと離婚してこい」

 あまりの勢いだったので店内の店員と客が驚いてこちらを見てきた。結羅は、周りに謝りながら樹を座らせる。

「樹……落ち着いて。他の人に迷惑だから。ロリコンなんて失礼よ。それに私は、それでいいと思っているの」
「何でだ!?」
「……呪詛の効果が強くなってきているの。さっきも話したけど、これ以上続くと私だけではなく、茜の身も危険になるわ。今は安全性のことを考えても、彼の力が必要なの」